もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
また帰る場所






研ぎ澄ます感覚
迫る沢山の気配
私の墓場はここにしよう
沢山の人を守って死のう
それが私に出来る守るための最善の方法にして、世界から必要とされない(ごみ)を捨て去るための最悪(さいぜん)の方法

きぃん、とクナイが鳴った
まるで噛み付くように喉笛を狙って
仕留めるために心臓を狙って
獣が生きるために狩りをするように
私という獣は死ぬために殺して、殺して殺して殺して殺して
言葉なんて届かない、理性なんて今の私には無い
あるのは死ぬために殺す本能だけ
私を"私"に引き戻せるのは、きっと誰も居ない
ホ ン ト ウ ニ ?

どこかで、疑問を投げかける声が聞こえた気がした



―――――
side:雷蔵


三郎と浦瀬さんと共に忍装束を着て走る
門の前には誰も居ないと思っていたのに、そこに居たのは紫の装束と小松田さん


「あ、不破君と鉢屋君、それに浦瀬さん。ほんとに綾部君たちの言うとおりだねぇ」
「だから嘘は言ってないって言ったじゃないですか」
「あ、綾部に平に田村・・・?」
「どうしたんだ、お前ら」


ふにゃふにゃといつものように笑う小松田さんに、少しだけむっとして返した田村くんに、僕はそこに居た3人の名前を呟いた
それに続くように、怪訝な顔をした三郎が話しかけた
3人はそろってこちらを向くと、声をそろえてほのか先輩を助けに、と答えた


「・・・そういえばあんた達4年生って皆ほのかに懐いてたわねー。気がついてたわけ?」
「当たり前じゃないですか!私ほど完璧ですと人の心すらも手に取るように・・・「喜八郎から教えてもらっただけだろうお前は」なんだと三木ヱ門!」
「二人とも今は喧嘩してる場合じゃない」


思い出したようにそういった浦瀬さんに、胸を張るように喋り始めた平くんに田村くんの茶々が入って、それをぴしゃりと綾部くんが一刀両断した
そのときにざり、と後ろから響いた音
振り向けばいつもの深緑ではなく、忍装束に身を包んだ七松先輩の姿


「お前達、行くんだろう?私も一緒にいくぞ」
「七松先輩・・・」
「皆出るんなら、出門表書いてねー」


はい、と渡された出門表にみんなの名前を記入して
確かに確認しましたー、と言った小松田さんは、少しだけ表情を曇らせる


「ちゃんと、みんなそろって入門表書きに帰って来るんだよ?一縷さんも一緒に・・・」
「・・・はい、約束します」


僕は、そういって小松田さんに笑った



また帰る場所






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