もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
一蓮托生



side:雷蔵


ばたばたと廊下を誰かが走る音
こんなに足音をさせるなんて一年生かな?
そう思いながら読んでいた本から顔を上げれば、ちょうどすぱーんと音を立てて障子が開いた


「不破いる?!」
「え、浦瀬さん?」
「あんたほのかがどこにいるかしらないっ!?」


どこか焦った表情で顔を出したのは、浦瀬さんで
その彼女が聞いてきた言葉に、僕は首を傾げつつ、首を横に振った
隣でごろごろしていた三郎がつまらなそうに浦瀬さんの顔を見た


「一縷は居ないのか。じゃあ学園の誰かに殺されてるかもな今頃」
「そのほうがどれほどいい事かしらね!」
「はぁ?お前一応一縷と友達だってのに学園の誰かに殺されてるほうが良いとか、正気じゃないな」


からかいを含んだ言葉に対して、焦った表情を崩さない浦瀬さん
そんな彼女を、からかいがいが無いと思ったのか、少々つまらなさそうに三郎は視線を逸らした
僕はそんな三郎を横目に、どうしたの?と理由を聞く
それに浦瀬さんは苦い顔をした


「不破はほのかが死にたがりなのは知ってる?」
「え、そうなんだ」
「そうなのよ。でもあの子知っての通り七松先輩の女版とか言われてて、簡単には死ねないわ。だから自殺はしないけれど誰かに殺される事を望んでるのよ、面倒なことにね」
「それが今一縷が居ないこととどういう関係があるって言うんだ。それが本当だとしても、今学園に脅威なんて・・・「あるわよ」・・・は?」

死にたがり、何て
そうは見えなかったけど、人は見かけによらないらしい
三郎が少しだけ眉をひそめながら話に顔を突っ込んでくる
言葉をさえぎって否定した浦瀬さんに、その脅威をもたらす可能性のあった城の名前を思い浮かべる

シャグマアミガサタケ城

鈴音さんが所属していた城だ
もっとも、学園の生徒の多くは鈴音さんがスパイであったことに気がついていないけれど


「曲者であった鈴音さんが居なくなった、向こうだってなにかしら手は打ってるでしょうよ。情報が向こうに流れてるのならなお更ね。ましてやほのかは鈴音さんに一番近かったわ。勘が良いからそろそろ来る頃だって本能で気がついてたんじゃないかしら」


今学園は一枚岩じゃないもの、とため息をつく裏瀬さんに、同意せざるを得ない現在の学園
忍たまとくのたまには見えない壁が聳え立っているどころか、その前に亀裂すら出来ている


「状況がつかめないんだが雷蔵どうい「それって今向かってきてて、一縷さんが一人でいったって事?」・・・雷蔵に無視された・・・!」
「鉢屋うるさいわ。そういうことよ、たぶん。あの子の部屋、住んでいる部屋にしては不自然に片付すぎてあったもの。生きて帰ってくるつもりないんでしょうよ」


三郎をぴしゃりと一刀両断してから浦瀬さんはため息混じりにそう言った
誤解を解くことなく死ぬだなんて、そんなのダメだ


「浦瀬さん、そのこと先生には?」
「報告したわ、でも先生達の第一優先は学園とそこに居る生徒を守ることであって、ほのか一人と他大勢なら、天秤は多いほうに傾くもの、期待はしてないわ」
「そっか」


それだけ返して僕は忍装束をとり出す
浦瀬さんは僕の様子を見て、用意が出来次第門の前に、と言って部屋を出て行った
三郎がむすっとした表情で僕を見ていた


「・・・一縷が鈴音さんを殺したのに意味があったのは知ってた」
「うん、だってスパイだったから殺さないともっと学園は危なかったよね」
「でも私たちはそれに気がつきたくなかったんだ。あの人が嘘だって思いたくなかったんだよ」
「知ってるよ、5年間ずっと三郎と居るからね」
「・・・私もいく」
「生きて帰れる保障はないよ?」
「私は双忍だからな」


ありがとう、とそう三郎に返して僕は笑った
三郎や他の皆がただ意地を張ってたのは気がついていたんだ
鈴音さんのそばは確かに心地良くて、自分が血塗れた存在であることを忘れさせてくれるような、そんな雰囲気を持っていたから




一蓮托生







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