もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
逝く先は天か地か






ひゅ、と後ろから小さく音が鳴って手裏剣が飛ぶ
身体を少しずらして避ければ、前に在った壁に刺さる手裏剣
八方にとがったそれにはきっとも猛毒が塗られていることだろう
私が後ろを振り向くと、そこに居たのは善法寺伊作先輩だ


「何か御用でしたか?」
「うん、君の事殺したくて殺したくて仕方なくて」


にっこりと笑った先輩の目から伺えるのは嫌悪の感情
きっと私が大怪我をして運び込まれたら、彼は私の怪我を治療するどころか悪化させそうだな、と頭の隅で思った
まあ、最近の忍たまは皆そんな感じだけれど
あぁ、4年生の皆は、そういえばそうでもないな、と思う
助けようともしなければ、嫌いもしない
無関心すぎてどうしようもない、というより、日常そのものだ


「そうですか、でしたら今度はその殺気を仕舞ってきてくださいね。そうじゃないと避けちゃうので」
「君が避けなければ済む話だよ?」


馬鹿じゃない?と小馬鹿にしたように先輩が笑った
それで避けないなら私はこんなに死にたがらない
ただ、体が反応して避けてしまうから、私は誰か強い人に殺してもらうしか死ぬ術はないわけで


「まあ、次はがんばってくださいね、善法寺先輩」


私はひらりと手を振って、その場を後にした
残す台詞は、彼らの怒りを静めるどころか増徴させる
それで私が死ぬのなら、それはそれで私は嬉しいから


「ああ、でもそろそろ来るだろう敵襲に、一枚岩にはならないかもね」


歓喜でざわつく胸の感情を抑えながら、私はそう呟いた

私が鈴音さんを殺したのは、彼女が来てからそれなりに時間がたってから
違和感が何度もあったのはきっと彼女がただ学園で生活するだけじゃなくて、別のことに意識を持っていたから
彼女だってきっと一般人ではないはずだから、たまごの私には違和感としか感じられなかったんだろう
そんな彼女ならば、何度か彼女の所属していたシャグマアミガサタケに情報を送っていることだろう
今の学園ほど落としやすい物はないはずだ

遠くで微かに笛の音が聞こえた
私は静かに立ち上がって背伸びする
ポキポキと鳴る背骨
忍器はもてるだけ持ったし、今の学園に私が死んだところで悲しむものは少ないだろう
死ぬための舞台は整った
後は主役がそろえば殺戮劇の始まり始まり


「さて、逝こうかな」


そう言うと、私は闇に紛れる忍装束で学園を飛び出した
後に残る部屋には、綺麗に畳まれた制服と、整理整頓された生活感のない部屋が残るばかり



逝く先は天か地か






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