もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
獣の死闘






ぺろりと目の前の彼が唇をなめる
それはまるで獣のよう
目がぎらぎらと輝いて、こちらしか見えない、そんな雰囲気
でも私はそれを待っていた


「大切な人を作っても、弱みになるだけでしょう?それが弱い、自分の身も守れないような人なら、尚更」
「鈴音さんは弱くたっていい、それを守るのが私たちの仕事なのだからな」
「・・・誰が、いつ鈴音さんだと言ったのでしょう」


守るべき対象は将来の主のみ
それ以外は大切だとしても切り捨てる覚悟を持つように、なんて
ここにいる者ならば基本中の基本として、心得ておかねばならぬこと


「もし、鈴音さんを私が殺したらきっと・・・―――先輩方は烈火のごとく怒るのでしょうね」


何かを含むように、深読みさせるように私は言葉をつむぐ
苛立ちと殺気が織り交ざった目線が私に注がれる
私はくるりと先輩方に背を向けた
そして走り出すのは忍術学園の方角
といっても、実際に忍術学園に戻るわけじゃない
その手前にある、少し分かりづらい川のほとりへと誘導する


ふいに開ける視界
私はそこで眉をひそめた


『・・・ねえ、あれって、鈴音さんよね?』
『なんでここに・・・?』


矢羽音が聞こえる中、私は一直線に彼女"ら"の元に近づく
吹き出る血
倒れる体
血が少し飛び散り、服や皮膚を汚す

ヒュ、と後ろで息を呑む音がした
振り返れば立ちすくむ友人の姿


「・・・ほのか、何で・・・そこまでイってはいなかったはずでしょ・・・?」


私はそれに答えることなく、電光石火のように向かってきた七松先輩のクナイを受け止める
先ほどとは比べ物にならないくらいに強い殺気
私はそれに笑みを浮かべる
血が騒ぎ、ぺろりと私は唇をなめた



―――――
side:雷蔵



ぴりぴりとした空気
さっきのものは手加減していたのだと分かるほど強い殺気
笑みを浮かべる一縷さんだけが場違いのよう


「怒ってるんですか?そうですよね、皆さん鈴音さんの事大切みたいですし」


笑みすらも混ぜてそういう一縷さん
冷静であればそれが怒車の術だと分かりそうなものではある
けれど、冷静さを欠いた七松先輩は、一縷さんの術に陥る
余裕そうな笑みを浮かべた一縷さんに向かっていく姿は普段よりも荒々しくて
普段どおりでないことは直ぐにうかがえた
クナイ同士のぶつかる音
たまに離れたときに見える姿は双方にボロボロだった


「・・・不破、ちょっと来て」
「浦瀬さん・・・?」


二人の様子を見ていた僕にかかった声
浦瀬さんは、一縷さんが切った人影の横に座っていた
僕が近づくと、浦瀬さんは鈴音さんのものではない体を指差す


「こっちの忍者、シャグマアミガサタケの忍者よ」
「それって確か・・・」
「えぇ、最近力をつけてきた城」


密会してたんじゃないからしら、と浦瀬さんが小さく呟いた
それは推測でしかないけれど、状況を見ればないとは言い切れないそんな推測
分かった上で殺していたのだろうか?
そう思いながら、未だに七松先輩と死闘ともいえる戦いを繰り広げる一縷さんに視線をやった



獣の死闘





お城の名前はたぶん被ってない・・・はず!


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