奇襲 結局、要注意すべきは七松先輩、とだけ決めて、私たちは6年生に挑むことになった 札を持つ久々知くんの護衛はいざとなったら七松先輩に対抗できる竹谷くん、久々知くんに化けた鉢屋くんは、久々知くんがい組だからと尾浜くん、そして七松先輩の相手をするために一番負担が大きい私には、茅野と不破くんがついた 闇に紛れた演習 鈴音さんの事は、私がつけないからと後輩のくのたまに任せたけれど、大丈夫だろうか ちらり、とそんなことを頭がよぎった けれどその考えは、響いた開始の音によってかき消された 「――――ほのか」 茅野に名前を呼ばれる それを合図にするように、私は"壊す者"になった ――――― side:雷蔵 浦瀬さんに名前を呼ばれた瞬間、能面のように表情が欠落した一縷さんに、僕は背筋がぞくりとした そこに居るのに、在るとは思えない気配 彼女は、誰だろう 一縷さんであることは変わらないはずなのに、そこに居るのは今まで僕が、ううん、僕らが見ていた一縷さんはどこにも居なかった 「茅野」 「はいはーいっと」 無表情の一縷さんは、浦瀬さんの名前を呼んだ後、どこかを目指して地を蹴り上げた 浦瀬さんがそれに続いて、僕は二人に遅れる形で慌ててその後姿を追いかける 先輩達の居る場所は分からないはずなのに、どこに向かっているというんだろう そう思いながら彼女達を追いかけていると、不意に開けた視界森の中にぽっかりとあいたその場所に、緑色の制服 それに向けて、一縷さんは突っ込んだ いつの間につけられたのか、きらりと光る長めの鉤爪が、中在家先輩の持っていた縄標の縄をかすめる 「っ長次!」 善法寺先輩が中在家先輩の名前を叫ぶ きっと 中在家先輩が後ろに下がりながら、一縷さんに縄標を投げるが、それを跳んで避けた一縷さんは縄を踏む すかさず後ろについていた裏瀬さんが、縄標の先についていた標を切る それを確認することなく、一縷さんは中在家先輩との距離を詰める その直線上に、七松先輩が身体を滑り込ませた きぃんと高く鳴る金属の音 「やっぱりお前、私と似てるな!」 嬉しそうに七松先輩が笑う それはこの場違いの笑顔のように思えた けれど、直ぐにその表情は消えた 口元に笑みを浮かべているものの、目がまったく笑っていない 「だから、大事なものが傷つけられて怒るのは、お前も同じだろ?」 空気が、ぴんと張り詰めた 奇襲 → 戻 |