もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

小菊「元気」



side:朝花



私はひっそりと忍術学園で縫い物をして毎日を過ごした
人と会わない様に、本当にひっそりと
きっと忍者だから、私が居ることに気が付いてるんだろうけれど
そっとしておいてくれているのか、それとも警戒して近づいてこないのか
どちらにしろ、ご飯を届けにきてくれる長次くん以外とは一切会わない生活
現代で、いろんな事を言われてきた私にとっては、何も言われない、凄く楽な生活だけれど


「・・・ごめんね、長次くん」
「・・・なぜ、謝る?」
「だって、迷惑かけてばっかりだから・・・」


ご飯を持ってきてくれた長次くんに、私は謝る
けれど長次くんは首を横に振った
私の頭をその大きなごつごつとした手で撫でると、ふっと戸の方に視線を向けた
そして頭を下げさせられる
急で驚いたけど、それよりも伏せさせられてすぐにむちゃくちゃ早いスピードで飛んできた白いものにもっとびっくりした
ぱしんと大きな音がして、音の原因を見るとそれはバレーボール
・・・なんて時代錯誤なんだろう・・・室町にバレーボールなんてあっただろうか
頭が混乱しているのか、そんな事を思いながら、唖然とバレーボールを見ていれば、長次くんが大丈夫かと尋ねてきたので、大丈夫だと返した


「あの、どうしてこれ、飛んできたの・・・?」
「友人がバレーが好きで・・・よく、やっている」


もう一度ボールを見てから、それがぶつかった壁を見た
ぼこりとへこんでいる壁と、ほぼ無傷なバレーボール
・・・長次くんの友人はどれくらい力が強いんだろう、想像できない
未だに状況を理解できずに、ぱちぱちと瞬きをしていると、キキーッ!とでも擬音がつきそうなくらい急停止をした影が障子にうつった
そしてスパーン!と大きな音を立てて戸を開けると、長次ぃ!と大きな声で長次くんが呼ばれた


「バレーボールが飛んでいったと思うんだが知らないかっ!」


長次くんは何も言わずにぴっと転がったバレーボールを指差した
入ってきた彼はそれに何も突っ込まずに、おぉ、ありがとな!とにかりと笑ってボールを回収する
でもそのボールは私のすぐそばに転がってきていて、必然的に彼と私は目を合わせることになってしまった


「ん?お客さんかー?」
「・・・友人だ」
「なにっ、長次の友人っ?ということは篤葉とも知り合いなのか?」


なんだかくわっと詰め寄られてしまった
しかし篤葉とは誰だろう、私はまったく知らないけれど・・・
ためしに長次くんに助けを求めてみると、長次くんは彼の襟を引っ張って私から引き剥がしてくれた
うぉっと驚いた声がして、危ないだろー長次!とちょっとした文句があったが、長次くんはオールスルーだった


「朝花と篤葉はあった事はない」
「そうなのかー、じゃあこの子どうしてここにいるんだ?」


なんでーなんでーと長次くんに聞く様は、言うなれば遊んで遊んでーと飼い主に主張する犬とでもいえばいいのだろうか
・・・なんだか錯覚が見える気がしたけど、きっと気のせいだよね
でも、ソレよりこの人、バレーボール取りにきただけのはずなのに・・・ずいぶんと時間経っていないだろうか


「あの・・・バレーボール、いいんですか・・・?」
「うん?あぁ、忘れてた!早く行かないと滝ちゃんが怒るな、また遊びに来るぞ!」


そういって彼はにこーっと笑うといけいけどんどーん!と叫んで去っていった
・・・なんだか台風のようだったけれど、本当に彼は誰だったんだろう・・・?





小菊「元気」








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