姫金魚草「幻想」 side:長次 少し無理そうに笑った朝花に、思わず手を伸ばしそうになった だが、今は一人でどうにかしなければならない 私がいくら朝花が無害であるといったところで、あの同級生達は納得しないだろう それどころか、どうやって私に取り入ったのだなんだと言って朝花に辛く当たるような気がするのだ ・・・伊作あたりは違うかもしれないが 朝花には辛い期間だろう それが例え短い間だとしても 戻らなければいけないから、とひと時の別れを告げれば、いってらっしゃい、がんばって、と告げられる 私はすまない、と告げて後ろ手で襖を閉めた とん、と小さな音が鳴る 朝花の様子は気になるが、私も朝花が少しでも居やすくなるように動かなければならないな 手始めに、小平太だろうか そんなことを思いながら、朝花が居る部屋を離れた ――――― side:朝花 長次くんの去った部屋はがらんとして、決して広くない部屋のはずなのに、とても広く感じた つうっと頬を伝う水 あぁ、私泣いてるんだ 寂しいのかな、長次くんが居るから平気だよ だって向こうには何もなかったもん、うすっぺらい上辺だけの友達、表面しか気にしない両親、一枚フィルターを通しているように、他人事ばかりの世界 全部全部、疲れちゃったんだ、私 だから、変わらない長次くんの性格に、私は凄く安心して こっち側なら、幸せに、私らしく在れるのかなって思った でも、そんなに上手く行くわけないんだよね "私"って、なんだっけ・・・ わかんないよ ねえ、私はどうしたらいいの ぽつり、と呟いた 一人しか知り合いが居ない、味方の居ないこの世界 ここに私が居るのだって、ただのお情け 怖い 私を取り巻くすべてが恐ろしくて、わけが分からない 混乱する思考、出口の見えない迷路 こわい、よ・・・たすけて 何を馬鹿な事を言っているの わけの分からない子ね 貴方はただ私たちの言う通りにすればいいの 私たちの子どもでしょう? ねー、知ってる?朝花ちゃんってさー えーっ、うそっ、そんな子には見えないよ? でもほら・・・ いつも長袖だよね・・・ わ、来たよ、いこっ 私はずきずきする頭と、聞こえてくる幻聴にいやになりながら、部屋の隅に目を閉じてうずくまった 姫金魚草「幻想」 → 戻 |