鉄砲百合 「偽らない」 side:朝花 とてもではないけれど、信じられないことであり、信じてもらえないことも仕方がないのだと覚悟して、私はここにたどり着いた経緯を話し始めた すべてを話しても、目の前に座る学園長さんの顔はとても難しく、置いてくださいなどと頼めるような雰囲気ではない 私が怪しいのは百も承知であり、自覚もしている 本来ならば、今すぐにでも存在を消されてしまっても仕方がないのかもしれない なににせよ、私がこの学園にとって不利益な存在であることは変わらないのだ 「・・・ふぅむ・・・難しいのぉー」 「・・・責任は私が持ちます」 「そういう問題ではないのじゃよ、中在家」 ぎゅっと膝の上で握られたこぶし きっと力が入りすぎて、爪が食い込んでいる事だろう そっとさりげなくその拳に、長次くんの手が重なった 見上げれば、その顔にはひそかに心配の表情が浮かんでいる 大丈夫だということを笑顔に混ぜて返せば、もう少し力を抜いたほうがいいといわれた 手を開いてみると、爪が食い込んで手のひらに傷がついていた じっとこちらを見ていた学園長さんは、ごほん、と一つ咳払いをした 「そうじゃの・・・次の長期休みまで限定で、お主がここにいる事を許そう。じゃがその代わり、何かしら手伝いをしてもらうことになるが、よいかの?」 「っはい!ありがとうございます!私に出来ることなら何でもしますから」 私は学園長さんの言葉に、頭を下げた 私は部屋を一つ与えられ、しばらくはそこで生活することになった お手伝いする仕事は繕い物 食堂は毒を入れられるかもしれないと危惧されるだろうから簡単に手伝いなど申し出てはいけないはずだし、事務だって学園の情報を見ることになってしまうから、と自分で辞退した どちらにせよ、事務は崩し字の読めない私は出来ないだろう事は分かっていたんだけど・・・ 繕い物は一日に一回夕食と共に、どなたか先生が運んできてくれることになった 先生方の目はとても冷たいものであったけれど、これに耐えられなければ、私はこの時代で生きていくことなんて出来ない よそ者なんて、きっとそんな扱いだもの 「すまない、朝花」 「気にしないで?私は長次くんにまたこうして会えただけで十分嬉しいもん」 大丈夫、長次くんがいるこの場所でなら、数ヶ月くらい、きっとやっていける それに人前に出るつもりはない 男子だけしかいないらしい忍たま側で、身を守る術のない私がふらふらと歩いているのは迷惑になるだろうことは分かっている 幼い頃にはなかった長次くんの手の平には、今までの積み重ねでたこが沢山出来ていた 顔にも傷がついて、すっかり笑わなくなった長次くんは、笑うと傷が痛いのだと、そう教えてくれた それほどに過酷なこの時代に、平和な世から来た私が居れば、きっと彼らにとっては悪影響にしかならないだろう だってぬるま湯に浸かっていた私の思考は、この時代には異質でしかないと分かっているから 「大丈夫、人と会わないようにして、ここの人たちに迷惑はかけないようにするから」 耐えられるよ、だって長次くんがいるから 鉄砲百合 「偽らない」 → 戻 |