藪手毬 「覚悟」 side:朝花 私が時を超えてこの室町へたどり着き、長次くんに再開した後 私と彼が悩んだのは、私をどうするかだ 未来から来たなんて言う子どもを信じて置いてくれる人が居るわけがない 人は大多数と違う物を排除するか、あるいは崇敬するかの二通りだ だってもし頭が良ければ、顔が良ければ、その人は自分たちと違う特別な人になる あるいは、凄く顔が良くないとか、性格が人と凄く違うとかであれば、それはイジメとかで排除される どちらも、逆もあると思うけど・・・ 家族や学校生活という、ある意味での閉鎖空間で、他人と何かが違うというのは、自分の身を滅ぼしかねないものだと知ったから 「どうしよう・・・」 「・・・家に来てもらうにしても、道中が危ない・・・」 私の今の立場はとても不安定で すがれるのは長次くんしかいない、ただのちっぽけな人間 長次くんだって、まだ子どもで、庇護される側の人間だから、一人でどうこうなんて出来ない 室町時代という、平成の世で平和に暮らしてきた私が簡単に暮らせる時代じゃないことも、大きな問題 「・・・学園長に・・・」 「・・・学園長・・?」 学園長というくらいだから、きっと一番偉い人なんだろう 学園って事は、ここは学校なのだろうか 私はサァッと血の気が引いていくようだった 閉鎖された空間 強要される“同じ”に、苦しんだ日々 私の表情が変わったのに気がついた長次くんは、心配そうに私を見た 「・・・大丈夫か?」 「あ・・・ご、ごめんなさい・・・」 平成とは違うんだ 江戸時代は人情溢れる人柄だったというし、それ以前のこの室町時代でも・・・きっと、大丈夫・・・ 不安でも、長次くんがいるから、がんばれる、きっと 私は自分にそう言い聞かせて、大丈夫だと笑った 「・・・行こう」 「うん・・・」 怖いけれど、そうしなければ私は生きていけないから せっかく再会した彼が生きるこの時代で、一緒の未来を歩むことは出来ないから ――――― side:長次 始めてあったときには可愛らしいという形容詞が似合っていた朝花だったが、年を重ねたからか、落ち着きがあるものの、昔あった明るい性格は少しだけその影を潜めていた 向こうでなにかあったのだろうか、そう思うものの、それを聞くことで朝花の辛い気持ちを思い出させてしまうことになるのではと思い、私は口をつぐんだ 学園長に朝花を置いてもらう許可を得るために向かう庵への道中、罠に掛からないようにと繋いだ手は、記憶のものより小さかった 誰にも会わないように気をつけて、学園長の庵にたどり着く 名前を告げて入室許可を貰うと、私は朝花を伴って庵の中に入った 「どうしたんじゃ、中在家。その女子は」 「私の、幼馴染です」 「あ・・・その、始めまして、朝花、です」 朝花を見て質問した学園長に、私はすっぱりと言い切る 朝花も少し戸惑いながらも、己の名前を言ってから頭を下げた 学園長はふぅむと言って唸ると、いつもは閉じている目をあけてこちらを見た 「・・・それだけではあるまい?」 「あの・・・長次くん、いいよ、私、ちゃんと説明する」 朝花の膝の上で握られた手は白くなっている 不安そうな表情は抜けきらないものの、その瞳に覚悟を宿した朝花の姿に、私は一つ頷いた 朝花は、少しだけ表情を緩めると、学園長に向き直る 「これから話すことは、とても信じられないものだと思います。それでも、信じてもらえますか?」 藪手毬 「覚悟」 → 戻 |