もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

天竺牡丹「裏切り」






流れる涙を止めて、表情をつくる
感情を押し込めることは得意だもの
だって現代では、いつもそうだったから・・・

先ほどの男たちの声が遠くで聞こえる
微かに聞き取った命乞いをする声に、私は耐えるように拳を握った
私にしようとしたことを差し置いて、なんて思っちゃいけないんだ
ここは、室町の世・・・戦国乱世、強き者が勝ち残り、弱き者が屈伏させられる時代
私はただの弱き者、屈伏させられても仕方がないのだから


「・・・本当に、甘えてばかりで、イヤになるよ・・・」


自嘲するように、そうつぶやいた



―――――
side:長次



朝花を木の太い枝に下ろし、涙を拭ってから、木を降りた


「てめぇ、何しやがるんだ!」

憤慨して怒鳴る男に、私は無言で手裏剣をとばした
頬にかすり後ろの木にかつん、と軽い音をたてて突き刺さる
遅効性の高い毒は、伊作の開発したもの
多種多様な材料で複雑に作られたそれは、解毒薬を作るのが難しいと聞いた
ただの破落戸に、それを作るための術も伝手もないだろう


「ッチ、あれはどっかの位の高い娘か何かだったのかよ・・・!」
「ど、どういうことだっ?」
「ウルセェ、黙ってろ!・・・なぁ、アンタ、俺たちあの子にゃなにもしてないぜ、指だって触れてねぇ。ここは穏便にいこうじゃねぇか」
「・・・物理的にはそうかもしれないし、彼女も良いというかもしれない・・・。だが、私が許せない」


いつも、小さな声でしかしゃべらない自分が嘘のようだ
だが、朝花を守る為ならば、何をしてでも守ろうと・・・再会したときに思ったのだ
あの遠い昔、 最後に会った時の顔を再びさせないために


「な、なぁ・・・」
「お前は何度もウルセェんだよ!黙ってろっつっただろうが!」
「ちげぇよ!おまえ、寒く感じないのか・・・っ?」


目の前で言い争う二人のうちの片方の一人が、小さく震え始める
それをみたもう片方の一人が、ばっとこちらを向いた
やけに破落戸にしては知識がある、なぜ破落戸などしているのか不思議なくらいに
彼はお、おまえ・・・と言葉をもらした


「俺たちを・・・最初から・・・!」
「・・・交渉に応じるなど、一言も私は言っていない」
「っお願いだ!こいつはどうなってもいい、だから俺だけは!!」
「お、まえ・・・!」


死にそうになれば簡単に見捨てる姿に、先ほどまで居た忍務先の情景を思い出す
ただ静かに己を魅せる花はあんなにも綺麗だというのに
思考を巡らせ、言葉を操る人間はこんなにも醜い
私は一つため息をついて、その命を刈り取った


天竺牡丹(ダリア)「裏切り」



長次さんむずいっす(´・ω・`)


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