鶏頭「警戒」 side:雷蔵 食事を片手に持ち、ついてくる三郎に言葉を返しながら向かう先は中在家先輩の知り合いだという人の元 三郎は得体の知れない人だから行くのは危ないと僕を諭すけれど、だからと言って頼まれた事をしないのは違うと思うんだ そう言っているのに、三郎は心配性だから、僕が行くことを止めようとする 「あら、不破に鉢屋・・・どうかしたの?」 「聞いてくれ夏穂!雷蔵が6年の長屋に居るって言うヤツに食事を届けに行くといって聞かないんだ」 「これは僕が中在家先輩から頼まれたことだってさっきから言ってるでしょ!いい加減分かってよ、三郎」 少し先の角から顔を出したのは、同い年のくのたまである夏穂だ それなりに僕らと仲が良くて、会えば話す間柄ではある 夏穂は僕らの様子に少し考えるそぶりを見せた そしてもしよければ、と一つ置く 「その仕事、私が行きましょうか?女性だという噂だし、不破が渡しに行くよりもいいんじゃないかしら」 「名案だ!そうしよう、雷蔵!」 「え、でも・・・」 「食事を持っていかないわけじゃないんだ、かまわないだろう?」 僕はいつものように迷いそうになったけれど、三郎がしつこいし、夏穂も気にしないでと言うから、僕は彼女に任せることにした 夏穂はそれじゃ、というと、僕が渡した食事を片手に廊下の角に消えていった それが後々、どんなことになるのか僕は気づかなかった ――――― side:朝花 障子越しに人影が見えた 「食事を持ってきました」 そして聞こえた女性の声 私はそっと小さく障子をあける 見えたのは篤葉ちゃんと同じピンク色の装束、くのたまの子だ なんだか優しそうな雰囲気に、私は無意識のうちにほっと一つ息を吐いた 「ありがとうございます」 「いいえ、頼まれた仕事をこなしただけですから」 お礼を言ってから、食事の乗ったおぼんが通るくらいに障子を開けて受け取る そのときに一緒に言われた言葉は、私の心にとすんと静かに刺さった “頼まれた仕事をこなしただけ” それは頼まれなければこんなところには来ないと、そういうことだから 彼女はニコリと笑った 「貴方は、この学園にとって邪魔でしかありませんから」 「・・・・・・」 彼女の言葉に、私は無言で返した そんなこと、私が一番分かっているのに 私に接してくれる人はただ、とても優しいだけなのだと 鶏頭「警戒」 → 戻 |