もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

不幸の子ども






どさり、と音を立てて落ちてきたのは、"あの"国民的アニメの6年生だった
で、まあ、何で落ちてきたのかまったく分からないので、私があずかることにしたんだけれど・・・


「あの・・・ここどこですか?」
「・・・えー・・・どう説明したらいいのかな・・・」


がりがりと頭を掻きながら、私説明って下手なんだよね・・・と呟いた
善法寺伊作と名乗ったその子は、不安そうな顔で私を見上げていた


「んー、まあ、平成って時代で、君らが暮らしてたであろう時代よりもずーっと後の時代だよ、ここは」


そう説明したら、腑に落ちない顔をしていたから、理解できないなら外見てみるといいと思う、と私は促した
シャッ!と音を立てて、カーテンを開くと、そこに広がるのは汚れた空と、ビルの広がる街
緑なんてぽろぽろとしかみえない、平成の世


「・・・・こんな・・・」
「残念ながらこんな世界だよ・・・君からしたら、きっととても汚い世界」


きっと緑が豊かなんだろう、室町時代だったはずだし
アニメでも、森がたくさん出ていた
竹林か何かのお話だってあったはず
それとはまったく違う、緑のない現代だ、驚いたって無理ないし、むしろショックを受けるはず
私はそこではたと彼に話しかけた


「刃物、持ってるなら預からせて、この世界で人殺しをすることも、刃物を持ち歩くことも、ご法度だから」
「人を殺さなくてもいい世界、なんですか・・・?」


それが法律だからね・・・と私は返した
振り返る彼は大きな瞳を少しだけ潤ませていた
私はふぅっと息を吐いて、小さくなっている彼の体を抱き上げた


「うわっ!」
「なきたいなら、ないていいよ、今の君は子どもで、この世界ではまだ親の庇護下にあるんだから」


ぽんぽん、と一定のリズムで背中を軽く叩いていると、しばらくして抱き上げた彼は、小さく嗚咽を漏らした
肩口がぬれて、少しだけ冷たかった



不幸の子ども