もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

保護者の休日





バタバタと騒がしくなった家に、今回もまた大変そうだと密かに苦笑を浮かべる
喜ぶべきは止める役割が居ることだろうか


「これ、おもしろいな!」
「こらさもん!かってにうごきまわってめいわくかけんな!」
「伊織さーん、これって・・・」
「おまっ、さんのすけそれどっからもってきたんだ、かえしてこい!」
「富松くん、大変ね・・・」


度々来る時代錯誤の小さな迷い子たちには、私も慣れたものだけれど
今までの子たちはなんだかんだ言ってもどこか落ち着きを持っていた

一番最初に来た六年生たちの情報曰く、萌黄色は三年生だと聞いている
四年生は、落ち着きと好奇心とでもいえば良いのだろうか、それが混在していた
けれど目の前の彼らは、好奇心ばかりが見えているような気がしてならない
三年生と四年生の間に何があるのか、それを私は知らないけれど
ただ思うのは、この家にいるときくらい、ただの子供で居てほしい、ということ

私はひょいと三之助の持っていた鞠ほどの大きさの白いボールを取った


「これはね、小平太用のバレーボールだったの」
「ななまつせんぱいの?」
「そうそう。みんな同じように小さかったから、ボールもあわせて小さめにね」
「・・・じゃあしおえせんぱいのそろばんとかも・・・」
「それは流石に作らなかったかな」


なにを思い出したのか、少しだけうげーっと声が聞こえそうな表情をした三之助と、それとは対照的にホッとしたような左門
・・・まあ、小平太のいけどんぶりは小さくても変わらなかったし、三之助の様子を見るに、委員会の後輩だったんだろう
ということは、滝の言っていた手のかかる後輩とは彼のことだろうか
そろばんを聞いてきたところから推測するのなら、左門は文次郎と三木の後輩だろう
二人はたしか、後輩は方向音痴で有名な片割れなのだとか言っていた


「作兵衛、もしや二人って・・・方向音痴?」
「あー、せんぱいたちからきいてますか?さもんは"けつだんりょくがあるほうこうおんち"で、さんのすけは"むじかくなほうこうおんち"なんすよ」
「・・・作兵衛がその手綱を握ってるわけだ」
「・・・すげーふほんいですけど」


作兵衛に確認を取れば、苦い顔で言われた言葉に、私は苦笑を零した
これは、今までみたいに外に出したら大変だ
出すにしても、二人一気に出すなんてしたら、何が起こるか分からない

まあでも、


「現代に居るときくらいは、ちゃんと頼ってくれて良いからね、作兵衛」
「!・・・ありがとうございます、伊織さん」


こっちでくらいは、少しくらいその荷を降ろしてくれていいはずだと思うのは、普通の事でしょう?

驚いた表情をしてから笑みを浮かべた作兵衛に、私も笑みをこぼしながら、ぽすりと頭を撫でた


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