もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

アイスクリーム






暑さも本格的になり、いよいよ夏本番となってきた
室町時代と違って、緑の少ないコンクリートジャングルの平成は、どうやら彼らにとって思っていたよりも辛いものらしい

ぐったりと床にだれる小さな体が六つ
小平太なんかは服を脱いで上半身裸である
小さくなったものの、変わらず鍛えられた筋肉が惜しげもなくさらされていた
まあ、それでも彼ら曰く落ちたらしいけれど
小さな体で筋トレをする様子は、文次郎が来てからよく我が家で見られる光景だ


「あちぃ・・・」
「あついってきいてたけど、ここまでとはおもわなかったよ・・・」


留三郎と伊作がぐったりしたまま呟く
私はそんな様子を見ながら苦笑をこぼした
室町時代はきっと上がっても30度くらい
ストップ地球温暖化などと叫ばれる現代とは、10度以上違うことだろう
たんれんがたらん!と叫んでいた文次郎も、気温が33度を越えたあたりで耐えられなくなったくらいだ
暑いからといって、冷たいものばかり食べたり、クーラーにばかり当たっていたら、夏バテしてしまうから、とクーラーはつけず、扇風機だけで過ごしているのも、暑い理由だろうけど


「みずあびがしたくなってくるな・・・」
「うらうらやまのかわがなつかしい・・・よくきんごをなげたりしてたんだけどな」
「投げ・・・って、そんなに深いところなの?」


ぐてっとした小平太に聞けば、こくんと頷いた
水浴びかぁ、とつぶやいて、私は棚を漁る
広告の入っていた箱のなかから、お目当てのものを見つけると、その広告を他の広告の間から引き抜いた
「これ、いく?」


6人に見せたのは、最近近くにできたというプール施設
ウォータースライダーで遊ぶ女性たちの写真や、家族で楽しむ様子の写真が乗せられ、下の方には割引券が付いていた
広告を受け取った小平太は顔をぱっと輝かせる


「いきたい!」
「みずあびできるの?」
「そうみたいだな」


水浴び、というか、水遊びだけど、余り変わらないだろうからいいか、と訂正せずに頷いた
ただ、そうなれば水着を買わないといけない
先に買い物かな、と予定を立てながら、私はバッグを持つ


「水に入るとき専用の服を着ないといけないから買いに行くけど、みんな行く気ある?」


声をかけてみると、気にはなるものの暑い外にでるのが嫌で迷っているらしい
ふっ、と笑みをこぼすと、帰りにアイス買ってきてあげるからみんなでお留守番してね、と告げる
アイスに小平太ががばりと反応して嬉しそうに笑う


「わたしちょこがいい!」
「ぼくはばにらがいいなぁ」
「じゃあおれはいちごだな」
「わたしはまっちゃだな」
「・・・なつみかん・・・」


口々に自分の食べたい味を言う中で、文次郎だけが言わないので、私は文次郎は?と聞いた
文次郎はどこか言いづらそうにぽつりとこぼす


「・・・き」
「聞こえなかったから、もう一回言って貰って良い?」
「・・・あ、あずきだっていってるだろ!」


暑さか照れか分からぬものの、すこし赤い顔で言ったリクエストに、なるほどと納得した
・・・そうだね、みんなアイスクリームなのに、文次郎だけあずきバーだもんね


「分かった、買ってくるから待っててね」


苦笑をこぼして私は家を出た
きっと中から聞こえてくる声は仙蔵や留三郎にからかわれて起こる文次郎の声なんだろう
早く帰らなければ、きっとすねてしまうから、早く買ってきて帰ろうて思いながら、夏の日射しが降り注ぐ道を歩きだした



アイスクリーム