もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

風邪っぴき






ある日の夜
私は困りに困っていた


「ごほっ・・・伊織さん、あつい・・・」
「ダメ、布団はかけてて」


蹴ろうとした掛け布団を直して、私は勘右衛門の頭を撫でた
季節の変わり目で体調を崩し、風邪をひいたのだ
けれどこの子達はみんな健康保険なんかないわけで
病院につれていけないから、市販の風邪薬しか飲ませてあげられないのだ


「うー・・・」


大きな目に生理的な涙を浮かべながら勘右衛門が唸る
どうやら辛いらしい
私は手を握ってゆっくり頭を撫でる
一定のリズムでなでていてやれば、そのうち寝息を立て始めたので、握っていた手をはなす
顔はまだ赤いけれど、寝息は落ち着いている

そろそろ面会謝絶を解いても良い頃だろうか
しかしもしまだダメで、風邪が移ってしまったら面会謝絶にしていた意味がないし‥‥

そんなことを考えながら、私はサイドテーブルの上に置いてある食器を片付ける
出来るだけ音を立てずに寝室を出てリビングに行けば、こちらにぱたぱたとよってくる兵助


「伊織さん、かんちゃんはだいじょうぶだった?」
「回復に向かってるから大丈夫よ」
「ならよかった!とーふにおねがいしたかいがあったのだ!」


にこにこと笑う兵助
その笑顔は大変かわいらしいが、そのセリフに私は苦笑を浮かべた
すべての物に神様は宿るとは言われているが、豆腐にも宿っているものだろうか
しかしながら、信じる信じないは個人の自由であるため、なにも言わないでおく
が、痛烈な突込みを入れたのは三郎だ
「とーふがねがいをかなえてくれるわけないだろ、あいかわらずとーふきょうだな、おまえ!」
「なっ、さぶろーばかにするなよ、とーふはすごいんだからな!」


何故かいがみ合う二人に、私はため息をついた
いつもならばこの二人の仲裁を勘右衛門か雷蔵がやってくれるのだけど、勘右衛門は風邪でダウンしてるし、雷蔵はソファの上でお昼寝中だ
もさもさした髪がソファの端から覗いている
ハチはともえから貰ったテレビゲームに夢中でこちらなんて眼中にない
いつも以上にカオスな状況で、手綱を握る人は重要だと身を持って知ったのだった


「兵助、豆腐は持ってきたらダメだけど、その代わりそこにある白いタオル持って」
「!」


三郎と言い合いをしていた兵助にそう言った瞬間、きらきらと大きな目を輝かせた
言葉をつけるのなら、いいの?本当にいいの?というかんじだ
そんな兵助とは対照的にむすっとしたのは三郎だ


「・・・へーすけだけ、ずるい」
「じゃあ三郎はそこのペットボトル持ってきてね」
「!・・・わかった!」


三郎はテーブルの上にあったペットボトルを取りに行き、兵助がタオルを持って帰ってきた
三郎もペットボトルを持って帰ってきたのを確認すると、風邪ひきの部屋の扉を開けた



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