もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

4月ばか








―――― ねえ知ってる?伊織。今日、4月1日ってね・・・ ――――


にこっと笑って友人から言われたエイプリルフール
外国文化を、変な部分だけ知っている彼らはきっと知らないんだろう
エイプリルフールという文化を知らない彼らに嘘をつくのはなんとも気が引けるというものだ


「ただいま」


家に帰り、扉を閉めながらそう声をかければ、ぱたぱた・・・は通り越してばたばたとした足音


「伊織!おかえり!」
「もそ・・・」
「ただいま、二人とも」


迎えに来てくれたろ組コンビにただいまをかえしてから、他の四人はリビングにいるのか
、と聞けば、いるぞ!と元気よく返される
手を引かれて、リビングに入れば、各々好きな場所に居る四人からおかえり、と声がかかった
私はそれにもただいまと返すと、夕食を作るべくキッチンに入った
そんな風に、いつもと変わらない一日を過ごした私






「なー、伊織」
「ん、どうかした?」
「えいぷりるふーる、ってなんだ?」


次の日の夕食時
私は小平太にそんな質問をされた
他の五人もそれには興味があるようで、じぃっとこちらを見つめてくる
エイプリルフールを、どこで知ったのだろうか?
私は特には言っていないけれど・・・


「きょうみていたてれびで、えいぷりるふーるのえいぞうとくしゅう、っていうのをやってたのをみたんだ」
「で、えいぷりるふーるってのがなんだかわからなかったから、かえってきたら、伊織さんにきこうってはなしになって」
「で、わたしがしつもんしたんだ」
「あぁ、なるほど」


思えば、確かにオモシロ映像特集とかいって、エイプリルフールの嘘を集めたものなんかをやっているところもある気がする
嘘って響き楽しいじゃない!と言ってエイプリルフールについて話していた友人を思い出す


「エイプリルフールっていうのは外国のお祭りのことだよ。外国では4月をエイプリル、愚か者とか、ばか者をフールって言うの。エイプリルフールって言う言葉自体は、うそに騙された愚か者を意味するんだ」
「な・・・なんかむずかしいな・・・」


むぅ、と聞いた本人なのに顔を難しくする小平太に、私は苦笑する
ただ仙蔵は分かったらしく、きらきらとした表情で続きを促してくる


「その日一日だけは嘘をついても許されるんだよ。だから、テレビでも嘘の映像を流したりするの、エイプリルフールだからって」
「そのえいぞうのとくしゅうというわけだな」
「なら、あのえいぞうってぜんぶうそだったのか!」
「だまされたのか、もんじろう。ならばおまえはばかものだな!」


してやったり、といったような表情で文次郎をいびる仙蔵に、私は苦笑する
まあ、仙蔵ならば気がついてもおかしくはないかもしれないけれど・・・


「知らなかったのだから、あまり苛めないの」
「・・・ふむ、伊織がいうならばしかたがないな」


えらいえらい、とチョコをころん、と手渡せば、貰っておいてやる、と言いながらも、いそいそと包みを外し口の中に放り入れる仙蔵
その言葉が照れ隠しだというのは流石にもう分かるようになっていた私は、なんだか嬉しくなって笑みを浮かべたのだった




4月ばか