もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

節分








よくある紙に印刷された鬼のお面を眺めながら、私は考えていた


「伊織ー!なにしてるんだ?」
「んー、ちょっと考え事をね・・・」


どたどたとよってきたハチのぼさぼさした頭を撫でて、私は苦笑をこぼした
今日は節分で、豆をまいて歳の数だけ豆を食べて、ついでにコンビニが広め始めた恵方巻きなんてものを食べる日だ
聞いたところ、忍術学園があったのは近畿だそうだし、室町でも恵方巻きを食べる習慣はあっただろう、多分

恵方巻きはそれほど問題じゃないのだ
問題は豆まき
よく小さい子は親が鬼のお面を被って子どもに豆を当てさせている気がするのだけれど・・・
ちらり、とハチを見る
きょとんとして私を見上げるハチはとても子どもらしくて可愛らしいけれど
中身は14歳の男の子であり、それなりに鍛えた身体を持っていた
むしろ身体が縮んだだけで、筋肉が減ったわけではないらしい
もちろん、身体が動かしづらいからいつもみたいに動けないとは言っていたが・・・主に、小平太が
あの時は有り余る元気を何で発散させればいいのか分からなかったものだ
アニメのキャラクターだから、あまり外にも出させられないし・・・
それは今も一緒だが、5年生5人組はあまりそういうことを言わないでおとなしくしてくれるので、とても助かっている


「・・・ハチ、豆まきしたい?」
「やらせてくれんのかっ?」


ためしに聞いてみれば、目を輝かせて私を見上げるハチ
そうだよね、やりたいよね
まあ、私もやるのはかまわないんだよ、やるのは
ただ・・・


「あのさ・・・鬼って必要?」
「あてられるやつかぁ・・・おれはいたほうがたのしいけど、でもむりならべつにかまわねーよ」
「必要なら、やったほうがいいのかなって思ったんだけどね・・・」


凄く、全力で投げそうじゃない?と聞けば、ハチはおれそんなことしねーよ、ななまつせんぱいじゃないし・・・とちょっと疲れた顔で答えた
・・・小平太、向こうでなにやったんだろうか・・・
気にはなったが、凄く聞かないほうがいい気がしたので私は聞かなかった

だが、ハチに聞いたおかげで心配していた思いっきり豆投げられるんじゃないかという不安は解決できたので、問題ないだろう
とりあえずそろそろ恵方巻きの準備をしないと間に合わないからと私はキッチンに立った





ある程度恵方巻きを作り終えると、私は5人を呼んで、紙で作った箱に入れた豆を渡した
私自身はスーパーで貰った紙のお面を被る


「じゃ、私逃げるから、全力投球したら痛いからやめてね」


しないとは思うけど、と付け足しながらも5人に言ってから、私は逃げ始めた
鬼は外、福は内ーと掛け声をかけながら投げられる豆から逃げつつ、すべての部屋をまわり最後に玄関から外に出る
私は玄関の外でお面を外すと、部屋の中に入った


「豆食べるのは14個だけだからね?」
「えー、おれもっとくいたい」
「そんなに恵方巻きが食べたくないのかなハチ?」


14個だけという言葉にブーイングをあげたハチだったが、私がにこーっと笑うと口をつぐんだ
大丈夫、どうせ食べるだろうからとハチの分だけ恵方巻きは大きめだ
椅子に座らせて、今年は南南東だから向こうね、と指をさしてから、恵方巻きを渡す
食べやすいように少し小さめだ、長さは変わらないけれど
まあ、ハチの分だけ太いのだけれど
食べて居る間は部屋が静かだったが、あぐあぐと食べにくそうにする表情はちょっと必死で
もうちょっと細くすればよかったな、と苦笑を浮かべた




節分






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