もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

伊作と長次とガーデニング






「え、なにか育てたい?」


僕がそういうと、伊織姉さんは意外そうな顔をした
そんなに僕ってそういうのにかかわらなさそうかなぁ・・・
そう思うと、それが顔に出ていたのか、伊織姉さんは苦笑を浮かべた


「あぁ、別に嫌なわけじゃないのよ。でも、伊作がそういってくるのがちょっと意外だったかな・・・。でも、考えてみれば、保健委員って薬草にも詳しいんだものね、そういうの育てても不思議じゃないわね」


そういった伊織姉さんは少しすまなそうな顔をして
僕はそういうつもりで言ったわけじゃないし、伊織姉さんを困らせたいわけじゃなかったんだけど・・・


「あの、だめならだめでいいんだ」
「気にしないの。伊作がやりたいなら私は必要なもの、ちゃんと揃えるわ」


その代わり、簡単なものになるけどいい?と聞いてくる伊織姉さんに、僕はありがとうと言って飛びついた


「わっ・・・もう、いきなりは危ないからね・・・」


そういいながらも、ちゃんと受け止めてくれる伊織姉さんは、意外と力があるとおもうのは僕だけかな?




―――――




伊作が園芸をしたいと言ってきた
よく考えれば、この家で出来ることってあまりないし、自然の多い室町時代から来たのならばそういった畑仕事なんかをしていた子もいるんだろう
そういうのが出来ないって、ちょっと寂しいことなのかもしれない
それに、伊作は保健委員で薬草の世話をしていたと前に言っていた
それなら、土いじりだって日課だったろうし、それがなくなるというのもやっぱりなんだか物足りないだろう
しかし・・・

「・・・手軽なのって、なんだろう・・・」


そこが問題なのだ
家でも育てられる手軽なキットって・・・と近くのホームセンターにある園芸コーナーを覗けば、ガーデニングブームの影響か、様々なキットがあった
むこうに何があったかどうかなんて私はしらなくて、棚の前で唸ることになったのだが・・・
正直・・・伊作自身も連れてくればよかったと思った
ただ、どう見ても外国のものだろうハーブなんかがあるわけが無いだろうし、薬草園なのだからそれにありそうなもの、となると花などになるのだろうか




そんなことを思いながら、ガーデニングセットなる土やプランターのセットと、朝顔や薊、芙蓉など、日本原産だと思われるものを買い込んで、家に帰れば迎えてくれる足音


「ただいま」
「おかえりなさい、伊織さん!」
「・・・おかえり、伊織」


ぱたぱたと走ってきた伊作と、その後ろからついてきた長次
話を聞けば、長次も向こうで植物を育てていたらしい


「とりあえず、いくつか買ってきてみたんだけれど・・・」


そういって机に広げてやる
興味津々にそれらを見る二人に、私は笑みを浮かべた


「買って来て見たのは朝顔、アザミ、芙蓉、タツナミソウ、シラン、かな」


説明書、読める?と差し出せば、二人で覗き込み、どうにか、とこぼす長次
伊作はそこまで読めないらしい


「まあ、長次はこっちの本読んでるから、それなりには読めるよね。書庫の本は自由に使っていいから、がんばってみて。それでも分からなかったら手伝うから」


まずは自分で挑戦ね?といえば、伊作は意気込んでがんばる!と言い、長次もこくりと頷いた
とりあえず、また今度、今度はペンの使い方と観察日記用のノートを買って来ないとなーと思いながら、早速書庫に向かう二人の背を見送った





伊作と長次とガーデニング