もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

長次と書庫








じいぃぃっと見つめ合ったままの私と長次くんに、先に来ていた4人が苦笑する


「ちょうじ、そんなにけいかいしなくてもだいじょうぶだ」
「そうだぞ、伊織はバカだからな」
「どの口がそんなこと言ってるの?文次郎」


ぐいっと文次郎の頬を引っ張れば、文次郎はいひゃい!と訴えた
ご飯はどうにか食べて貰って一息着いてから、この時代を説明すべく向き合ったんだけど、無言が痛いってこう言うときに使うのかしらね


「とりあえず、聞きたいことを言ってくれれば答えるわ。でもその前に自己紹介ね。私は周防 伊織、ここの家主で、あなたも含めたちびっ子たちのこっちでの保護者になるわ」


よろしく、と言えば、彼はぽそり、と呟いた
・・・極端に言葉の音量が小さいって事?
隣に座っていた仙蔵が通訳してくれた


「ちょうじがよろしくといっているぞ」
「・・・喋るのが苦手ってことね。聞き取れるように頑張るわ」


私はそう言って笑うと、一通り、時代についての説明をした
といっても、この時代が、彼らの時代よりもずっと後の時代であるという事と、家の中の使い方程度だけれど


「とまぁ、とりあえずそれくらいね。知りたいことがあれば遠慮なく聞いてくれれば答えるわ」
「・・・ほんは、あるのか?」
「本?書庫なら一応・・・でも、多分室町時代に読まれていた本はあまりないわよ、いいの?」


構わないと頷いた長次くんを書庫に連れて行く
伊作と仙蔵はなにやら興味があるらしく、ついてきていた
一つの扉の前に来ると、私はその扉を開ける
すると、紙のにおいが広がった


「わ、すごい・・・」
「こんなにたくさんあるのか・・・」
「読書は趣味なのよ」


天井まで届く本棚に詰められた本は1000を越えるだろう
友人にも本の虫だと言われるが気にしたことはない
知識が増えるのは楽しいことだから


「読みたいのなら自由に呼んでくれて構わないわよ。上の方はそっちに脚立をつかって」
「わかった・・・ありがとう、伊織、さん」


名前を呼んでくれたちょうじくんに、私は笑った


「どういたしまして。あと、さんはいらないわ、私長次って呼ばせて貰うつもりだから。それに、ここにいる間は家族だからね」


私はそう言って、長次くん改め長次の頭をぽすっと撫でた





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