どっちが最初? ポツポツと雨が降る道を、私と伊作は歩いていた 昨日の名残の水たまりに、かっぱを着て長靴を履いた伊作が入り、水が跳ねる 楽しそうなその様子に、私は笑った 「あんまりやってると、そのうち顔から水たまりにつっこむんじゃない?」 「ぼくそこまでふうんじゃ・・・っ?!」 私が言った側から、バランスを崩して転びそうになる伊作に、私は慌てて伊作の手を取った 「言った側からね」 「ご、ごめんなさい、伊織ねえさん」 私はしゅんと小さくなる伊作に、気にしないの、と笑う そして、まだやりたいだろうと思い、手をはなそうとすれば、伊作はそれを拒むように私の手をきゅっと握った 「伊作?」 「あの、つないだままかえってもいい?」 おずおずと私を見上げてそう言った伊作に、私は笑っていいよ、と言った 不安そうな表情がぱっと明るくなり、伊作は嬉しそうに手を握る 「えへへ」 「どうした?」 「なんだか、伊織ねえさんがほんとうにぼくのねえさんみたいで、なんだかうれしいんだ」 にこにこと笑ってそう言った伊作に、私は一瞬呆けるものの、頬に熱が集まるのが分かって、伊作にバレないようにすこし顔を逸らしてそうか、とだけ返した ――――― 「ただいま」「ただいまーっ」 家に帰れば、どたばたと走る音 そして相変わらずな文次郎と留三郎の喧嘩をする声 「おまえはせんぞうといっしょにいればいいだろ!おれはいさくのでむかえだっ」 「おまえこそあとでもいいじゃねえか!おれはこっちにようじがあるんだ、とめさぶろうこそむこういきやがれ!」 ・・・今度はなにで喧嘩しているんだ、あの2人は・・・ 私は1つため息をついて、伊作からかっぱを脱がせた 長靴を脱がせるべくしゃがむと、リビングで言い合いをしていた2人がこちらに姿を現した そして2人は示し合わせたかのように声を合わせて言った 「おかえり、伊織さん!」 「おかえり、伊織!」 伊作が苦笑を浮かべている 私は長靴を脱がせていた手を止めて、2人の頭に手をおくと、ぐしゃぐしゃと頭を撫で回した 「2人とも出迎えありがとう、ただいま」 そう言って笑えば、2人は面白いようにタイミングを揃えて別々なほうにそっぽを向いた そんな2人に、伊作と私は小さく笑っていた どっちが最初? 戻 |