もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

仙蔵と火器







「文次郎ー?もーんーじーろー?・・・どこ行ってるのあの子」


まったく、ちょっと買い物ついてきてもらおうと思ったのに・・・
そう思いながら、私は玄関の近くで仙蔵ががさごそと何かをしているのを見つけた


「なにやってるの、仙蔵」
「ん?あぁ、伊織か。ものおきになにかおもしろいものはないかとさがしていたのだ」
「・・・ここが私の家だって承知の上よね、仙蔵は・・・まあいいや。で、何か欲しいものはあった?」


私がしゃがむと、仙蔵は大きく頷いた


「あったぞ、ほれ」


そしてぽいっと渡されたのはだいぶ昔に使わなくなった半紙と、去年友達にやりに行くから!と言われて買ったものの結局使わなかった家庭用手持ち花火


「・・・なんで、花火?」
「かきをつくるのだ!」


かき・・・って食べ物なわけないわね、ってことは・・・火器?
・・・って、え、ちょっと待って


「現代でなんてものつくろうとしてるのよあんたは・・・」


私ははぁっとため息をついた
まあ、家にある花火なんかの火薬で出来るものなんて、そんなに危なくないものなのかもしれないけれど
それでもその発想・・・流石忍者?


「だが、ふところにほうろくひやがないのはなにやらさむざむしくてな。そのかわりになにかかきがほしいとおもったのだ」
「仙蔵は火器をよく扱ってたのか」
「ほうろくひやはわたしのとくいぶきだ!」


焙烙火矢ねぇ・・・確か焙烙ってのに火薬入れた武器だったっけ
あー、なんか変わりにあるものあったかしら


「・・・あ、そうだ」
「どうかしたのか?伊織」
「うん、ちょっと向こうの部屋で待ってて」


仙蔵はふむ、分かったと言ってリビングに入った
それを見届けてから、私は物置をあさった
いくつか大きなものをどけた向こう側に見つけた小さな箱


「あ、あった」


それは作ってみたのよ!と火器オタクの友達が自慢げに見せてきた焙烙火矢(模型)の入った箱だった
あの子ものすごく凝り性だったから、質感とかまで全部こだわって窯元だかまで行って作らせて貰ったんだとか言ってたわね
流石に火薬は入れないで、中はただの黒い粉にしたって言ってたけれど
私はそれを持って、リビングで待つ仙蔵の下へ向かった


「仙蔵」
「伊織、もどったのか・・・・それはなんだ?」
「焙烙火矢、模型ね」


私がそういうと、仙蔵は驚いた顔をして箱をじっと見た
私はそれを仙蔵に渡す


「あけてもいいのか?」
「いいわよ、そのために持ってきたんだから」


少しわくわくとした声に、私はくすりと笑った








仙蔵と火器