もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

可愛いアヒルの子






「うん、で?」
「で・・・って、それだけだ」


アヒルを手にそういうのは最近家族に仲間入りした食満留三郎くんで
私ははぁっとため息をついた

「あのね、それは売り物じゃないんだってば、売り物はあっち」
「でもおれはこれがいいんだ!」


ぎゅーっと抱きしめられた・・・マスコットのアヒル
デフォルメされて、可愛らしいそれは、某アニメに出てくるボートの頭そっくりで
大きさも丁度それくらいだったのだ
しかし、それはただの置物、売り物ではないわけで・・・


「おれのアヒルさんボートのあたま!」
「・・・・・・」


どうしても離さない留三郎くんに私は頭を抱えたくなった
・・・どうしてただの買出しのはずなのにこんなに苦労しないといけないんだろう・・・
遠巻きに見る奥様方はほほえましそうに見るだけで助けてくれそうにないし
そういえばこれって姉が弟を宥める図?それとも母が子を宥める図?
・・・まだ二十歳になって月日が流れてないのに、母子の図だったら私はへこむ・・・!
まあ、それはおいておいて
このままでは埒が明かないと考えた私は、近くで見守っていた店員さんを呼んだ


「すいません、コレ、頂いてもかまいませんか・・・?」
「ふふっ、いいですよ、そこまで気に入っていただけたのでしたら」


店員さんいい人・・・!
普通のアヒルよりも値段は高くなったが、とりあえず留三郎くんの要望にこたえることには成功した
アヒルの頭を持って、留三郎くんはとてもご機嫌だ
私は彼をカートに乗せてさっさと服と食材を買うと、帰路を急いだ
・・・なんたって、不運な子が待ってるし・・・ね
部屋の中がぐちゃぐちゃになってたらどうしようかなー
それともまた人が増えてたら・・・

・・・どっちもありえそうで怖い・・・!

私は最初の一人が落ちてきてから続く非日常を思い出して苦笑するのだった



可愛いアヒルの子