もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

貴方が捨てた物の再利用、つまりエコなんです







ぱきり、といやな音がした
ぴたりと足を止めて下を見ると、女装用のかんざしが見事に折れていた


「ご、ごめん依敦・・・!」
「あー・・・いや、落としてた僕も悪いし、気にしないで」
「でも・・・」


シロがしょんぼりとしながら代わりを買うというのだが、僕はそれを断る
下に落ちていたのは僕の管理が悪かっただけだし、シロは悪くない
それでも、直して用具委員で使えるものは直して使うという習慣のついていた僕は、どうにか直せないかと壊れてしまったかんざしをじぃっと見つめた

・・・うん、無理

それが僕の下した判断で
強いて言うなら、もしかしたら、本当にもしかしたらだけれど、一番手先が器用な食満用具委員長なら・・・もしかしたら!直せるかもしれない
それでも相当きついのかもしれないけど

でも、食満用具委員長の元に行くのは凄く気が乗らない
だってあの人、ものすごく変態だし
行ったらなにされるか・・・!考えただけでも恐ろしい
作兵衛先輩は少し妄想癖があるけれど、基本的にいい先輩だ、男らしいし
僕は委員長のような人間には絶っ対になりたくない
むしろ作兵衛先輩のような人間になりたいと思っている
だが、委員長にかかわるとものすごく自分がその目標からそれていく気がしてならないのだ


「・・・いやだなぁ・・・」


だから、かんざしを見せに委員長の部屋に向かう足取りはとてつもなく重い
どれくらい思いのかっていうと、おもりを両足にくっつけたようだ
とりあえず、せめてもの願いは委員長の同室である善法寺伊作先輩がいらっしゃることだけだ
あの人は委員長を止めてくれるから

六年の長屋の一角で足を止める
枠にかけられた木札には『食満留三郎』と『善法寺伊作』の文字

・・・がんばるんだ僕

ぐっと覚悟を決めると、僕は声をかけた


「二年い組の月島依敦ですが、食満留三郎用具委員長はいらっしゃいますか」


呼びかければ、すっと戸が開いて、委員長が顔を出した
・・・既に崩れかけている顔、どうにかして欲しい・・・


「おう、どうした?」
「・・・女装授業用のかんざしが壊れてしまって、委員長なら直せるのではないかと・・・」
「そうか、入っていいぞ」


そういって部屋の中に手招きされる
ちらりと見た部屋の中には、どうやら善法寺先輩も居るらしい
なら安心か、と考え、失礼しますと断ってから部屋に入る
委員長は、僕が持ってきたかんざしを見ながら、直せるかどうか見極めている


「あー・・・コイツはむりだな、ぱっきりいっちまってる」
「・・・そうですか」
「危ないからコイツは俺が処分しておくな」


そのほうがいいだろ?と一見優しさから言われたようなその台詞に、僕はうげ、と顔をしかめた
・・・要するに、僕が使ってたかんざしだから欲しいってことなんだろう
引きつる顔をどうにかいつもの顔にもどすと、僕は断った
どうしても欲しいのか、引き下がらない委員長に、僕は痺れを切らす


「っあぁもう、いいです、あげますよ、それ!なので僕はこれで失礼しますっ」
「おう、またな」
「留さんがごめんね」

今までお茶を啜っていた善法寺先輩の言葉に、僕はありがとうございますと断って、早々に部屋を後にした
・・・後ろからごめんねってどういうことだよ、なんて台詞、僕は聞いてない




貴方が捨てた物の再利用、つまりエコなんです
(再利用って、あれは絶対要するに使用済みが何か欲しかっただけだよね・・・はぁ・・・)








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