もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

作兵衛のにゃー



「聞いてくれよましろー・・・」


ぐったりとしながら座り込み、吾輩を呼んだ主人に、にゃあ、と答える
もちろん、苦労している主人の愚痴を聞く体勢はばっちりだ
主人は鳴いて答えた吾輩の頭をなでると、左門と三之助が・・・と話す
どうやら今日もいつものように、方向音痴二人組が脱走したらしい
毎回毎回、脱走した二人を捜すのは主人で、主人は学園中から二人の保護者まがいに思われている
主人も、迷子二人と同じ年だと言うのに


「・・・はぁ、ホント、俺なんであいつらの保護者みたいに思われてんだろうな」
「にゃぁーう・・・」


ぽつり、とこぼされた主人の言葉に、同意するように鳴いた
ただ、そんなことを言いながら、きっと呼ばれたらまた行ってしまうのだろう
ならば、吾輩が主人にするのはつかの間の安らぎを与えること

遠くからこちらに向かう足音が聞こえてぴくり、と頭を上げた
今日のつかの間の休息も、本当につかの間だ


「作兵衛ぇーっ!左門が消えた!」
「またかっ!」


呼びに来た友人殿の言葉に、すぐさま縄をひっつかんだ主人は、部屋を出て行った
そんな姿を見送って、吾輩はぐーっと伸びをすると、消えた左門殿を探しに部屋を出た


富松作兵衛の猫


11/16 誤字修正




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