三郎のにゃー 吾輩の主人は大変器用な人間である なぜならば、多様な顔を使い分けるからである 「お、こんなとこに居たのか、ましろ」 「にゃあ」 吾輩が廊下で日向ぼっこをしていると、主人の友人殿の顔をした人物から主人の声が聞こえた 顔をあげ、声の聞こえた方を見れば、黒髪の姿 どうやら今日は別学級の友人殿の顔をしているらしい だからと言って、吾輩が主人を間違えることは無いが 吾輩は顔で主人を判断するわけではないのだから 吾輩はくあ、と一つあくびをすると、顔を埋めた すると、不機嫌そうなというよりはすねたような声が降って来る 「ましろはつれないな、まったく・・・そんなヤツにはお仕置きだぞ?」 吾輩はその言葉にちらりと主人の顔を見上げて尻尾をぱたりと振る お仕置き、などと言っておいて、本当は自分が構いたいだけだろう、と突っ込みつつも、そんな存外寂しがりやの主人のために、吾輩は起き上がった ふるりと身体を震わせ伸びをすると、立っていた主人の足に身体を摺り寄せる そうすれば、主人はしゃがんでゆっくりと吾輩の背を撫でた すわれ、と念じるように一つ鳴くと、それが通じたのか主人は廊下の端に胡坐をかいた 吾輩はすぐその胡坐の中に納まると、もぞもぞと寝心地の良い場所を探す 「なんだ、また寝るのか?」 上から降ってきた、けれど先ほどとは違った感情の声に、吾輩は尻尾で答えて、撫でられる気持ちよさを感じながら、誘われるまままどろみに身を任せた 鉢屋三郎の猫 戻 |