もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

時友四郎兵衛のにゃー



何度も何度も、的に向かって手裏剣を投げる主人
吾輩はそんな主人を草の上に寝転がって眺めながら、ぱたりと尻尾を動かした

白い、銀にも見える髪は、いつもこんもりとふわふわしていそうなのに、今は汗で心なしかへんなりしている
肩で息をしていた主人は息を整え、また投げる
カッ、と音を立てて刺さった手裏剣は的の真ん中よりも外側だ
主人はそれを見て一つため息をつくと、とぼとぼと的まであるいて、的に刺さった手裏剣を抜いた

そんな主人を、吾輩はかれこれ一刻は見つめている
何度も何度も同じ事を繰り返すことは悪いことではなく、むしろ良いことだが、いかんせんぶっとうしでやりすぎではないだろうか

吾輩は主人の意識をこちらへ向けるべく一つ鳴いた


「にゃーう」
「ましろ?どうしたの?」


くるりとこちらを向いた主人は、不思議そうに吾輩に聞いてきた
吾輩は、立ち上がると、主人に近づき、その足下で主人のまわりをぐるりとまわり、足に身体をこすりつけた


「ご飯かなぁ・・・」


ぽつりと呟いた主人に、吾輩はもう一度にゃーうと鳴くと、長屋に歩き始めた
ご飯ではないが、そろそろ休憩せねば、集中力が切れて怪我をしかねないだろう
ならばそうなるまえに、昼寝にでもつきあってくれよ、主人


「あ、待って、ましろー」
「にゃぁう」


手裏剣を片付け走ってきた主人に、吾輩は目を細めてひとつ、鳴き返した



時友四郎兵衛の猫







- 7 -