タカ丸のにゃー ふわり、と主人の持つ匂いが漂ってきた 主人が近くに着たらしい 「あ、居た居た、こんなところにいたんだね〜、ましろ」 声が上から降ってきたが、吾輩は顔を上げずに、尻尾をひとつぱたんと動かして主人を出迎えた そんな吾輩の様子に、主人が笑う声 「相変わらず愛想悪いなぁ〜」 「・・・にゃぅ」 寂しそうな声音を含んだ主人の声に、仕方ないなと一声鳴いてやると、嬉しそうな気配 それにしても、主人は分かりやすい 足音は立つし、匂いだって椿油などの髪結いとやららしい匂いを纏っている 主人は忍者ではなかったのだろうか、とおもうときもたびたびあるが、主人だから仕方ないか、と納得するのはいつものことだ 「ねー、ましろ。ぼく忍者に向いてないのかなぁって思うときがあるんだ」 ゆっくりと吾輩の丸まった背中を撫でながら、主人がぽつりと言った ・・・まあ、向いているか向いていないかといったら今は向いていないのだろう 忍者と髪結いの狭間に揺れる主人 どちらの道を選んでもきっと後悔するけれど、今は二つ両方追いかけていたいと 思春期とやらの身勝手な思いなのだろうか、だが主人も人間ではもう大人と分類される年齢であろうに・・・ 「ましろー・・・なんか言ってくれないかなぁ」 「にゃ」 「・・・凄くどうでもいいように返された気がするのはぼくだけなのかなぁ」 実際そう返したのだから当たり前だ、主人 吾輩は片目だけ主人を見て、すぐに閉じる 午後の光が差し込む廊下で、ぬくぬくとあったかい もう少ししたらきっと女子の忍者が主人を訪ねてくるだろう そうしたら吾輩もどうせゆっくりできないのだ、女子達に遊ばれるからな それまでは、もう少し忍者でも髪結いでもない主人で居るが良いさ 吾輩はどんな主人だろうと、主人の猫なのだからな 斎藤タカ丸の猫 戻 |