喜八郎のにゃー 「ましろー、ましろー」 ふらふらと吾輩を呼ぶ声がした だが、吾輩は主人の呼ぶ声に反応するまいとじっと草むらに身を隠す 吾輩が主人から逃げる理由は簡単だ なぜなら・・・ 「あ、みつけた」 「み゛っ」 尻尾に走った痛み そのまま尻尾を引っ張られ、ぷらーんと宙づりにされる 吾輩の主人は、なにを隠そう猫好きなのだが、その扱いが壊滅的に下手なのだ 吾輩はみゃーみゃーと鳴いて助けを呼ぶ 気がついてくれない主人だが、よく一緒にいる同室の滝夜叉丸殿には頭が上がらないのだ なんたって吾輩に気づけば主人の無意識の行動から解放してくれるのだからな 「喜八郎!またましろをそうやって・・・!早く放せっ」 「でもまた逃げるかもしれない」 主人、扱いが酷いのをわかっていて逃げぬ者はいない・・・ だが主人に一度捕まれば、逃げた方が酷いと学習しているからな 逃げると追いかけたくなるらしい 気持ちは分かるが・・・ 滝夜叉丸殿はため息をつくと、吾輩を主人の手から救い出してくれた 「とりあえず私が預かるから、お前は土を落としてこい。ましろの白い毛が汚れるだろう」 主人は滝夜叉丸殿の腕の中でおとなしくする吾輩を見ながら、少し不満そうに頷く 滝夜叉丸殿はその様子に、先に部屋に戻るぞと声を掛けて歩き出した 「喜八郎が悪いな、ましろ」 「にゃーう」 少し疲れたように吾輩に謝った 吾輩は気にするなと一声鳴いた 綾部喜八郎の猫 戻 |