もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

三之助のにゃー



吾輩が散歩をしていると、どこからともなく人を呼ぶ声が聞こえた
どうやらまた吾が主人が消えたらしい
やれやれ、いくら作兵衛殿が見つけてくれるという安心があるにせよ、それでは作兵衛殿が不憫だ

吾輩は当てのない散歩を取りやめると、主人を探すため神経を尖らせた
歩きながら主人の気配を探すが、一向に見つかる気配がない
これは外だろうか?
吾輩は一つため息をつくと、塀に近い木に登り、学園の外に出た


「にゃーお」


一声鳴くと、ガサガサと音を立てて、草むらから学園の周りに住む野良が顔を出した
人間にはにゃーにゃーとしか聞こえない声だが、彼らは吾輩に主人が裏山の方へ向かったと教えてくれたので、同じように森の動物たちに協力を仰ぎ、主人を探した

しばらく進めば、ここはどこだー!と叫ぶ声
主人も共にいるのだろう、気配が二つ感じられた


「にゃーん」
「あれ、ましろ?」
「三之助の猫じゃないかっ、どうしてここにいるんだ?」


主人たちを探しにきたのだ
と言っても、通じないことは分かっているが
吾輩は主人の服の裾を引っ張る


「なんだよ、引っ張るなって」
「おなかが空いているのか?僕も空いたからはやくおばちゃんのご飯が食べたいぞ!」


主人が吾輩を抱えようとしたので、吾輩はその手をぺいっと前足で払った
吾輩は一つ鳴いて案内してもらった山犬に、学園に知らせてもらうように頼む
山犬は快く頼まれてくれ、すぐに遠吠えをした
程なくして返ってくる遠吠えに、作兵衛殿をつれてきてくれるという事が分かると、吾輩は迷子の主人たちが動かぬように相手をした

四半刻ほどして、作兵衛殿が主人と左門殿の名を呼んで走ってきた


「お前らほんっと二人だけで歩くんじゃねぇ!」
「作兵衛、そんなにかっかしてたらそのうち倒れるぞ!」
「お前らのせいだっ!」


ぶつぶつと言いながら、主人たちに紐を結ぶと、作兵衛殿は紐の先を握って歩き始めた
吾輩は人間ではないからな、止められぬも仕方なし
さて、明日も主人たちはどこへ行くのやら・・・





次屋三之助の猫











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