隣国へ 「食事会・・・?」 「あぁ、招待状が届いたんだ、雷蔵が良ければ、行ってみないか?」 そういいながら、送られてきた隣国の商人の手紙を差し出す 雷蔵は目を通して、その差出人が、こちらによく売りに来ている商人だと分かると、こくんと頷いた 「当日は私もついていくから、安心しろよ」 「うん、ありがとう、三郎」 ふにゃりと笑った雷蔵に、私は微笑み返して雷蔵の頭を撫でた 嬉しそうに目を細める雷蔵 純真無垢なこの笑顔を守りたいと思う反面、いつまでも純真無垢ではいけない、もっと国を見つめ、未来のために学ばせなければならないのだ、と思う 「さ、そろそろ休憩を終わらせて仕事をしようじゃないか。がんばれば夕食は雷蔵が好きなから揚げを作ってやろう」 「ホント?じゃ、私がんばるよ」 きらきらと目を輝かせた雷蔵に、私は本当だぞ、だからがんばれ、と言って、唐国経由で送られてきた、紅茶というものを雷蔵に淹れてやった 約束どおり、隣国の商人の家に招かれ、いつも贔屓していただきありがとうございますと挨拶をした後、もてなしを受けた 商人の家の料理を気に入ったのか、これは誰が作ってるんだろうね、と私にこっそりと耳打ちされる 私はそれを受けて、商人に言うと、厨房を見させてもらった 正確に言うなれば、作っている料理人を見るため、であるが 「今日の料理を作ったのは勘右衛門であったか?」 「はい、わたしです」 「うむ、黄瀬の主に評判であったぞ。してな、勘右衛門、黄瀬の主である雷蔵殿の付き人、三郎殿が、是非におまえの料理を教えて欲しいと申し出あったのだ」 商人に言われ、出てきたのは、私よりも少し年上だろうか、それくらいのまだ若い、鮮やかな緑色の髪を持つ女子 勘右衛門と呼ばれたその女子は、商人に言われた言葉に、わたしが・・・?と信じられないような顔をした 真偽を問うように投げかけられた、困惑の眼差しに、私は是と縦に首を振る それを見て、彼女は、わかりましたと返事を返した 「三郎ー?」 ひょい、と私を探して食事を取っていた広間から抜け出してきたのか、雷蔵が顔を出した 私は雷蔵に、先ほどの料理を教えてもらうから、庭を案内してもらうといい、といって、商人に任せる 忍に見えない場所から雷蔵を見守るようにと合図し、雷蔵を送り出した 「っと・・・初めまして。私は小翠勘右衛門と申します。どうぞよろしくお願いします」 「ご丁寧にどうも。私は三郎、黄瀬家の家臣だ。無理な願いを聞いてくれたこと、感謝する」 頭を下げられて、私もそれに倣い頭を下げる 勘右衛門は少し慌てたように、顔を上げてください、とこぼした 私はにっと悪戯に笑い、小翠が頭を下げるからだ、と言った 「敬語も要らないし、三郎、と呼んでくれ」 「でも、立場が・・・」 「私も小翠も家臣なことに変わりは無いさ」 「・・・そう?じゃあ、三郎、よろしく。わたしも勘右衛門って呼んで」 折れてくれたのか、困ったような笑顔は抜けなかったものの、了承してくれた勘右衛門 私は早速とばかりに、勘右衛門、と声をかけた うん?ときょとりとした表情を浮かべながら応えてくれたのがなんだかくすぐったく感じて、私はなんでもないさ、と言ってから、料理を教えてくれるように促した 隣国へ → 戻 |