もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

再会の音








母上に続いて、父上が死んだ
雷蔵は、今、あの黄瀬の家で一人


「雷蔵、今行くから・・・」


雷蔵と別れて、10年の歳月が過ぎた
剣術の師にはもう教えることもないだろうといわれ、様々な礼儀作法や知識も覚えた
民がどのように考えているのか、時間があればその都度見聞きした
今の私なら、雷蔵を支えることが出来るはず


そうして私は、黄瀬の家の門を叩いた




―――――




「本日より雷蔵様の家臣となります、三郎と申します」


頭を下げたままの、わたしと同じ髪色の男子
記憶よりも、少しだけ低くなった声


「三郎?・・・本当に?」


震える声
確認するように問えば、静かに肯定の意を返される
わたしは居ても立っても居られずに、三郎に飛び付いた


「三郎っ」
「う、わっ」


勢い良く抱きつけば、三郎は体制を崩して倒れ込んだ
あの何も知らなくて良かった頃より、確実にしっかりとした身体
しかたないな、と笑いながら頭を撫でるその手も、タコの多い努力した者の手で
ここに来るのが凄く大変だったんだってわかった


「おかえり・・・っ」
「ただいま、遅くなってごめんな、雷蔵」


そう言って笑う三郎にわたしはふるふると頭を横に振って
母上も父上も居なくなってしまったわたしにとって、もう家族は三郎しか居なかった
でも、双子だからと、黄瀬を継ぐのは長子だからという理由で、三郎は黄瀬じゃなくなってしまった
だから、三郎が戻ってくることなんてないと思ってた
それなのに、三郎は戻ってきてくれた、わたしのために


「泣くなよ、私は雷蔵の笑った顔のほうが好きなんだからな」
「う、ん・・・っ」


わたしの涙を拭って笑う三郎
触れる手の暖かさが夢じゃないって教えてくれている
わたしはそれが本当に嬉しくてたまらなくて、涙はまだ頬を伝うけど、笑みを浮かべた




―――――




ふわりと笑った雷蔵に、私は笑みを返した
そして改めて胸に誓う
守ろう、この笑顔を
雷蔵がどんな風に教育されてきたのか、私には分からないけれど
優しい雷蔵だから、きっとこの国で今起きている民が喜ばないことはきっと家臣たちのせいだと思う
昔から迷うと答えが出なくて、迷って迷って、結局決められなくて私によく相談していたくらいだから


「雷蔵、これからは私が雷蔵を支えるからな」
「うん、ありがとう、三郎」


笑って、きゅっと少しだけ抱きしめる力を強くした雷蔵の仕草に
私はただ笑うだけだった










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