もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

祝福された双子







その日
望まれて生まれた子どもがいた

黄瀬(きせ)家

長きに渡り、広大な領土を治めた城主を親に持つその子どもは
時代に忌み嫌われた男女の双子だった







「三郎ー!」
「雷蔵、走ると危ないよ」


笑顔で手を振りながら走る雷蔵に、そう声をかければ、足元にあった小さな石に足を躓かせる雷蔵
慌てて宙に浮く身体を抱きとめれば、同じ体格の私は雷蔵の身体を支えきれずに、地面に倒れた
慌てて雷蔵が身体を起こす


「だ、大丈夫?」
「平気だ、雷蔵に怪我はない?」
「うん、わたしも平気だよ」


だって三郎が受け止めてくれたからと笑う雷蔵に、私は良かった、と笑った
くすくすと二人で笑い、二人で起き上がる


「三郎、向こうで花畑を見つけたんだ、一緒に行こう?」
「・・・うんっ」


雷蔵に手を差し出されて、私はその手を取ると、二人並んで雷蔵の見つけた花畑に向かった





「わ、すごい・・・」
「ねっ、凄いでしょ?わたしも見つけたときに吃驚したんだ」


得意そうにそう笑う雷蔵
三郎と見たかったんだと笑う雷蔵に、私は嬉しくて抱きついた
花畑に座って、花を摘み取る雷蔵は姉弟目を差し引いても可愛らしい
ほわりとした彼女自身の雰囲気が、とても花畑に似合っていた


「三郎っ!」


名前を呼ばれて近づけば、はいっと渡された花
小さな花を受け取って、ありがとうと笑みを浮かべれば、嬉しそうに微笑む雷蔵
私は足元から同じ花を摘むと、彼女の髪の挿した


「さ、三郎」
「可愛いよ、雷蔵。似合ってる」
「あ、ありがとう・・・」


真っ赤にしてお礼を言う雷蔵に、私はかわいいなぁ本当に、と言って頭を撫でる
もうっ!と少しすねてしまった雷蔵に、私が慌てて謝れば、ふいっと顔を背けられてしまった
でも視線が合えば、どちらからともなく、なにがおかしいのかお互いにくすくすと笑い始める


「三郎様、雷蔵様」
「なにかあったのか?」
「どうしたの?」


後ろから来た見慣れた家臣
名前を呼ばれて用を聞けば、両親が呼んでいるから戻って欲しいといわれた
私たちは顔を見合わせると、家臣に伝えてくれたお礼を言って、ともに家路に着いた








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