もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

透明人間の恋








背中が重い
べったりとくっついているのは鉢屋だ


「かんえもんー、ひこが、ひこがぁぁ」
「あー、はいはい、反抗期みたいだったね」


えぐえぐと泣く鉢屋は正直なんだかじめっとしている
きっと兵助あたりはウザイって容赦なく言うんだろう
おれは言わないけど


「彦四郎にも思うところがあったんじゃないの?一年生だけど、学級委員なんだよ、彦四郎も、庄左ヱ門も」
「ぐすっ・・・でも、おれはたくさん、あまやかしたいんだ」
「初めての後輩だからね、分かってるよ」


表情は見えないけど、きっと顔から出すもの全部出しながら言ってるんだろう
意外と傷つきやすいのは、この五年でずっと一緒だったし、分かっている
おれたちは二人しかいなかった
・・・正確に言うなら、おれはいたのに、そばにいられなかったから、鉢屋は一人だった
いるはずなのにいない、透明人間のおれ
一人ぼっちで泣いてる鉢屋を、何度見たことか


「鉢屋」


一つ、名前を呼ぶ
ぐずる気配がするが、こちらに意識が向いているのが分かった
体制を変えて、おれは振り帰る
そこには予想通り、顔から出すもの全部だして泣く鉢屋がいて
おれはふにゃりと笑った


「おれがいるだろ?」
「かん、えもん・・・」
「おれじゃ、不満?」


ぺろり、と涙を舐めれば口に広がるしょっぱい味
狐につままれたように呆ける鉢屋に、くすりと意地悪く笑った
呆けたままなのをいい事に、おれは鉢屋に顔を近づけた
ちゅ、と小さく鳴る音
なかなか現実に戻らない鉢屋に、おれは調子に乗って何度も何度も口づけた


「んぅ・・・ふっ・・・っかんえもん・・・?」
「さぶろう、おれじゃ、不満?」


大切にするよ、今まで一人にした分、ずっと
そういえば、鉢屋は首元を赤く染めた
借りた顔のせいで頬を染めたりはしないけれど、分かりやすいその感情に、おれは気分を良くした


「覚悟してね、逃がしてあげないから」


かわいいかわいい、おれの三郎




透明人間の恋






勘ちゃんはでろんでろんに甘やかしてくれると思います
というか、そうだといいなの願望