もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

そしてしばしの戯れを







ふるり、と冬の寒さに体を震わせて目が覚めた
目を開けると、がらんとした部屋


「・・・兵助?」


恋人の名前を呼んでも帰ってこない返事
俺はぎゅっと拳を握る
いつだって兵助は、ずるい
俺はこんなに兵助の事で一喜一憂するってのに、兵助はそんな俺に気づかない振り

俺はため息をついて、今更二度寝なんて出来ないからと起きようと体を起こす


「っい!」


ずきん、と走る痛みに、俺は短く悲鳴を上げた
腰が悲鳴を上げて、昨夜を思い起こされる
いつも以上に激しかった行為を思い出して、俺は一人顔を赤く染める


「今日、なんもなくてよかった・・・」


それだけが救いだ
むしろ、だからこそなのかもしれないけど
今日は布団からでれそうにない気がした
改めて布団にくるまれば、うとうとと瞼が落ちて
部屋の外に気配がしたのに、俺は気づかなかった





―――――





そっと障子を開けば、まだ暗い部屋
布団にくるまっている部屋の主は、疲れているのかいつものいびきすら聞こえない
俺は静かに布団の横に座ると、ハチをじっと見つめた
半開きの口に気づいた俺は、ハチの頭の横に手をついて、ゆっくりと顔を近づける


「ん・・・」


本人が寝ているのを良いことに、俺はハチの舌を自分の舌で絡め取る
苦しそうな声がして、顔を離せば、ぼんやりとした顔で俺を見つめるハチ


「へいすけ、か?」
「おはよう、ハチ」


俺は笑みを浮かべると、まだ状況を把握し切れていないハチの口を、もう一度塞いだ




そしてしばしの戯れを




【Title by】 確かに恋だった