もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

偶然の集まりでしかない、今の関係








――― いまの関係が永遠だなんて、誰が言ったんだろうね


満月を愛でようじゃないかと、6人で集まった酒の席
ふっと笑んだ伊作が、そういった
その言葉に、誰しもが一瞬動作を止める
それは無論、俺も


「・・・あぁ、ごめんね」
「いや・・・そうだな、私もこの関係が永遠のような気がしていた」


そんなわけが無いのにな、と杯の縁を指でなぞりながら仙蔵が薄く笑う
俺達は、六年生
春になれば、皆互いの道を往く
その道が交差するのは、友情とは限らない


「俺達は忍者だ。・・・仕方ないだろう」
「それでも私は、みんなと離れるのが寂しいぞ。文次郎はそうじゃないのか?」


杯を傾けながらあきらめたように呟いた文次郎に、小平太は静かに返した
文次郎の言うとおり、俺達は忍者で
いまのように箱庭に守られているだけの子どもでは居られなくなる
そのときは刻一刻と迫って居るのだ
覚悟をしなければならない
けれど、それと同時に、ここから出たくないと思う俺・・・いや、俺達が居るのも事実
矛盾した心中を抱えながら、俺は静かに酒をあおる


「文次郎の野郎に同意するのは癪だけどな、俺達は忍者になるべくしてここに居る。けどな、だからと言って同胞を殺したくないと思うのも事実だ」
「私達は・・・忍者である前に人間だ・・・それも仕方ない」


俺の言葉に同意するように、長次が呟いた
その後、しばらく俺達は喋ろうとせずに、静かな沈黙が部屋を支配する





「僕ね、思うんだよ」


ぽつり、と伊作が言葉をこぼす
その顔にはどこか穏やかな笑みを浮かべていた


「今の関係は、偶然の集まりだ。でも・・・この偶然を、この奇跡を、一時のものになんてしたくないってね」
「・・・伊作らしいな」


ふっと笑って、俺が同意した
甘いだとかよく言われる伊作だが、それが伊作の長所であり、短所だ
つくづく忍者には向かない性格をしているが、それは普段だけであり、忍務の時にはその顔は確かに"忍者"であると主張するものであると、俺達は知っている


「本当に良くも悪くも伊作らしいな!でも、私もこの関係を"今"だけの物になんてしたくないのは一緒だ」
「・・・一度繋がった絆だ、そう簡単に消えるものじゃないと、私はおもう・・・」


にかりと笑った小平太と、怖くない微笑を浮かべる長次に、伊作も嬉しそうに笑う
その様子に、仙蔵と文次郎もふっと笑う


「私たちの築き上げてきたこの学園での日々は、そんなにも簡単に消えるものか」
「俺はこれでもお前らの事を信用してるんだ」
「文次郎なんかに信用されても嬉しくねーよ」
「んだと」


文次郎の言葉に間髪をいれず、俺は一言入れ、文次郎も売り言葉に買い言葉と言った形で言い返しそうになるが、俺も文次郎もそんな気分ではなくて
それ以上、口喧嘩が発展することは無かった


「・・・まあ、結局のところ・・・」
「この関係はまだまだ当分、崩れないって事だな」


ふっと俺と伊作が笑えば、みんな表情がやわらかくなった


「気を取り直して飲もう!」
「・・・飲みすぎるなよ、小平太」
「ふむ、気分が良いから取って置きを振舞ってやろう」
「お、仙蔵、それ相当高いやつじゃねぇか」
「流石仙蔵だな」
「もうっ、みんな飲みすぎないでね!」


結局は、まだもう少し、このままで






偶然の集まりでしかない、今の関係




【Title by】 確かに恋だった