もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

願わくば永久に親友であるよう




始めに
この小説は、【RKRN】五年生でJ.u.s.t/B.e/F.r.i.e.n.d.s【替e歌と絵】(ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm10024589)を参考にしてつくった、自己解釈小説です
(替え歌作者のはつか様からはpixivへの公開許可を頂いております)
J.u.s.t/B.e/F.r.i.e.n.d.sの原曲はttp://www.nicovideo.jp/watch/sm7528841(現在未公開中)です
本家様、ならびに替え歌製作者様であるはつかさまへのご迷惑はなさらないようお願いいたします
あくまでも、歌穏の自己解釈ですのでご注意ください
(タイトルも曲名の自己解釈に変えてみました)











「6年間使ってきたこの部屋とも、今日でお別れか」
「そうだね・・・」

部屋の中を振り返っても、そこにはがらんとした、6年前にはじめて来た時のように何もない

「行くか?」
「あぁ、うん」

兵助に促されて、俺は部屋の襖をしめた
部屋の外の木札に、俺たちの名前はもう無かった




卒業
それは俺たちが、思っていたよりも、ずっと重いものだった5年生のときはわかりきっていなかった"責任"
6年生になって分かる、その重さ
後輩達を守り、育て、そして同志達と、何れ剣を交える覚悟
すべてを飲み込み、消化し、そして学園という暖かい箱庭を出て行く





「ここで、お別れだ」

三郎が門を一歩でて、そう言った
俺たちは、それを見て、ぐっと拳を握る

「戦場で、あわないことを願ってるぜ」

そう言ったハチが三郎に続いて門を通る

「みんなとは、出来れば戦いたくないな」

でも、対峙したら、そのときは全力だ、と兵助が笑って門を通った

「僕、もう迷わないよ」

雷蔵が、覚悟を決めた顔をして、足を踏み出した

「いつか、戦場じゃない場所であったら、普通に仲良くしてくれよ」

俺も、そう言って、門をくぐった

俺の言葉に、4人は笑った

「当たり前だろ」
「だって俺たちは仲間(ともだち)なんだからさ」

俺たちは、みんな、笑顔だった
そうして道は分かたれた
再び交えるそのときは、また友としてか、同じ主を守る同士か、それとも・・・・首を奪い合う立場か
それは分からないままに、俺たちは互いに背を向けた
戦場で見えることの無い様に願いながら・・・





季節は巡る
暖かい日々を懐かしく思い、闇に生きる毎日
僕は城仕えの忍として、戦場にいた
そのときに、唐突に聞こえた懐かしい声

「雷蔵・・・」
「三郎・・・?」

立ちふさがる黒髪
けれど確かに聞き覚えのあるその片割れの姿
・・・・・・あぁ、もう僕の顔じゃないんだね―――
そんなことを心の片隅でつぶやいた
僕は学園を踏み出したあの日の言葉を思い出す

『僕、もう迷わない』

その言葉通りに、僕は剣の柄に手をかけた
対峙する三郎も同じように剣の柄に手をかけていて
僕らは同時に剣を抜いた
キンッと高い金属音が鳴る
互いの剣が合わさり、離れ、再度合わさる
その度に高い音が響いた

「っ雷蔵、私は・・・ッ!」

三郎が大きく僕と距離をとって叫んだ
僕は三郎の言葉を聞かないように、その距離を詰める
三郎は僕の剣を避けるだけだ

「例え敵でも、私は雷蔵を殺したくない・・・ッ!」

三郎が叫ぶ
分かっているんだ、それが甘いって

「そんなの・・・っ僕だってそうだよっ!でも・・・それが忍(ぼくら)だろ・・・っ!」

心に響くその言葉に、耳を傾けてはいけないことも、分かっている
でも、所詮、そんな末路しか僕らには残されていないんだ

キン、と再度響いた後、崩れ落ちたのは・・・――――― 三郎
僕はずるり、と凭れかかってきた三郎を抱いた
僕の手の中には、いつか三郎から貰った小太刀が血に濡れ、滴をしたたらせている

「ごめん・・・ごめんね・・・三郎・・・っ」

腕の中で冷たくなっていく三郎の頬に、泪が落ちた
・・・眠たい、なぁ・・・なんで、だろう?
目を閉じる少し前に、自分の手に傷があることに気がついた
まどろむ視界、走馬灯のように、5人で過ごしたあの日々がよぎって、最後に三郎の笑った顔が見えたような気がした






霧が漂う湖の畔で、ぐるると唸る狼

「虫獣使いか・・・面倒だな」

俺はそう呟いた
あぁ、虫獣使いといえば、ハチがそうだったな
よく、飼育小屋を壊されて虫を探し回るのを見ていたり、手伝っていたりしたあの日が懐かしい
もう、あの日に戻れはしないけれど
がう!と直線的に喉笛に噛み付こうとしたその狼を忍刀で切り捨てた
そして飛んでくる苦無
刀ではじけば、キンと響く音
そして近づいた人の気配に、俺は大きく後ろに跳んだ
霧のせいで見えにくいが、がしりとした体型に、力があるだろうと踏んだ
懐から手裏剣を取り出し、影に向かって投げる
簡単に避けるその影は、そのまま俺に向かってきた
振り下ろしてきた苦無を刀で受け止める
ぎりぎりとかけられる強い力に、腕が震えそうになる
俺はその力をいなし、体制を崩させようとするとすぐに相手は後ろに下がった
・・・これ、まるで・・・

「ハチ・・・か・・・?」
「・・・へい、すけ・・・?」

ざぁ、と強い風が吹いて、霧が薄くなる
現れた顔は、分かれたときよりも顔つきが忍になったハチの姿
その顔は驚愕から目を見開いてこちらを凝視している
けれど、それはすぐにきり、とした忍の顔に戻る

「・・・手加減は、無しだ」
「あぁ―――」

そう答えた時には、既に地を蹴っていた
ハチの力と、俺の速さ
こうして戦っていると、学園にいたときの組み手を思い出す
あぁ、あの時は、どっちが勝っていたんだっけ?
そんなことを考えながら、俺は手裏剣を投げ、苦無で弾き、刀で切りかかる

これは、運命(さだめ)だ
忍であるが故の、闇に生きるが故の運命(さだめ)
あぁ、願うなら・・・殺し合いたくは、なかったな

お互いの癖を分かった上で、背後を取れた俺は、ハチの首を切った
最後の力で飛ばしてきた手裏剣を弾いて、そうして事切れたハチのそばに寄る
あぁ、どうしてだろう、視界が歪むのは・・・

「さようならだ、ハチ―――」

そうして去ろうとした俺は、背後から近づいた気配に気づかずに
首に激痛が走った
振り向いた視線の先には狼の姿
あぁ、呼んでいたんだな、ハチ・・・―――
そうして俺の意識は闇に落ちた





はたり、と俺は足を止めて空を見上げた
鈍色の空が広がっている
・・・この空の下に、4人はいるはず、だよね・・・?

「・・・兵助、ハチ、三郎、雷蔵・・・」

ぷつり、と糸が解けて、すべて切れてしまったような・・・そんな感覚に陥った
どうしようもなく不安になる
だって、4人ともとても強くて、簡単に死ぬなんてない
俺はそう信じてる・・・
ぎゅっと手を握り締めると、俺は忍術学園へ続く道を再び歩き始めた




学園について、知ったその事実

「・・・どういう、ことですか・・・?」
「・・・死んだ、そうだよ・・・4人は」

手が震えた
死んだ?だって・・・・・・4人とも、そう簡単には・・・

「互いに、殺しあったそうだ」
「そんな・・・」

頬に泪が伝った
ぽたり、と手の甲に落ちる
互いに、なんて・・・そんな、一番望まないその状況で

「俺だけ・・・置いてきぼりって・・・酷いよ・・・」

流れる泪は、止まらなかった





季節は巡る
それは、何度も、何度も

「ほら、遅刻するよ!早く早く!」
「わ、待ってよ母さん!」

真新しい制服
新しい環境
新しい、学校

校舎までの道で、植えられた桜が舞う
あぁ、初めてみんなと会った、いつかの日みたいだ・・・
あの日は確か、後ろから、兵助が・・・

「なあ、体育館ってどこだか分かるか?」
「え?この道をまっすぐ行っ・・・・・・」

振り向きながら、俺は絶句したそして、震える声

「・・・へ・・・い・・・すけ・・・・・・?」
「なんで名前・・・・・・あ、え・・・?勘、ちゃん・・・・・・?」

最初は不振そうに、けれどすぐに何かを思い出したように、俺の名前を言った
俺は思いっきり兵助に抱きついた

「兵助!また、逢えた・・・・・・!」
「勘ちゃん・・・俺・・・」
「みんな勝手に死んで・・・置いていかれて、俺、凄く悲しかった・・・っ」

兵助は、小さくごめん、とこぼした
俺は兵助の手を取ると、ぐい、と引っ張って教室に向かう
きっと、兵助がいるなら、ハチも三郎も雷蔵も居る気がするから
1年2組と書かれた教室の扉を開け放って、見えた荒れた髪の毛と、どこか似た二人

「っハチ!三郎!雷蔵!」

何事だとこちらを見てきた教室の中の人は全部気にしないことにして、俺は三人の名前を呼んだ
兵助と同じように、最初は少しだけ訳が分からない表情
けれどすぐにがたがたと大きな音を立ててこちらに走ってくる三人
その顔は、あの時代と変わりなくて
俺達は互いに抱きしめ逢い、笑った





願わくば永久に親友であるよう





『また、逢えた』

流れる泪は、もう悲しみじゃない