もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

君に何度も惚れ直す







机に向かう後ろ姿を見つめる
ノートの上をすべるシャーペンがカリカリと音を立てている
時たまポキっと芯の折れる音がして、その度にがしがしと頭を掻くのはきっとハチの癖なんだろうな
俺はそんなことを思いながら、豆乳オレを一口飲んだ
こくりと喉を滑り落ちる暖かい豆乳オレ
そして舌に残るその後味に、オレの頬は緩む
既に作りなれたのか、それとも練習したのか、最近はオレが来る度にちゃんと同じ味を出してくれる
オレが美味しいといったその味を

そんな心遣いに、オレはふわりと気持ちが暖かくなるのを感じた
オレの気持ちを知ってか知らずか、オレに背を見せていたハチがくるりとこちらを向いた


「なあ兵助、ここ、教えてくれるか?」
「ん、みせて」


オレが手を差し出すと、ハチはわざわざ椅子から立ち上がってオレの元に来た
その行動が無意識なのか、それとも意識してなのか
それはオレにはわからないけど、そんな何気ない動作にも、オレは嬉しくなる


「あぁ、これはここがこうなって・・・」
「あ、なるほど、こっちの公式使うのか、そりゃあわねぇな」


問題が解けて嬉しそうなハチを横目で見てオレは笑う
にかりと笑うハチのその顔を見るたびに、自分の恋心の大きさを再確認する、なんて
きっと分かってないんだろ?


「兵助」
「・・・ん?」


ハチはオレの名前を呼んで笑った
それはただ嬉しそうな笑顔じゃなくて、オレが好きな、愛しさの混じる笑顔


「愛してるぜ」
「・・・ハチはずるい」


オレも愛してるに決まってるだろ


あぁ、きっといまオレの顔は赤いんだろうな
オレは赤くなった顔を隠すようにハチにもたれかかった






君に何度も惚れ直す