もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

花言葉 むっつめ「明日もさわやかに」







種を貰った次の日から、朝花は来なくなった
いくら朝顔を咲かせても、後ろから声をかけられることは無くなった
貰った種は、薄い紫の紫苑を咲かせた
それが何を意味していたのか、いまならば分かる
けれど、そのときの私にはまだ、それを理解するための知識は無かった
ただ毎日、朝顔を見つめては、朝花を待つ





けれど、それもいつの日かしなくなった





紫苑の花言葉は「あなたを忘れない」
その言葉を知った私は、紫苑の種が朝花が私に別れを告げるためのものだったのだと気が付いたから

君が忘れないならば、私も忘れずに居よう
思い出として、この淡い恋とも呼べぬような思いは、片隅にやってしまおう







シオンの花の種を渡した次の日から、私は長次くんに会うことは無くなった
私が"現実世界"で長次くんの事を話すことも無くなった
だからかな?お母さんとお父さんは喧嘩することは無くなって、私も普通に学校に行って、
"普通"の日常を送るようになった
けれど私の心はきっと"向こう"にあるんじゃないかって、いつも思う
だって、離れていても、あの日から何日もたっても、あの夢の日々は消えることなく鮮明に、私の中にあるから







そうして、時は流れた







「バイバイ、朝花!」
「うん、また明日ね」


手を振って学校を後にした
中学の制服を纏って、私は学校を出る
あの夢の日々から9年
正直、幼い日のあの夢の中での出来事は、薄れて行ってしまう
必死にかき集めようとしても、人の記憶なんて所詮そんなものなのかもしれない
それでも、あの日々があったという事実を、私が忘れたことは無い


そうして訪れる日は卒業の日
私は明日、中学を卒業する







今日も朝顔の観察をする
"あの日"から既に10年の月日が流れた
それでも私が朝顔を相変わらず気にかけるのは、あの日の思いが忘れられないからだろうか?


「中在家せんぱーい!」
「・・・―――」


後輩に呼ばれて振り向くと、手を大きく振る姿が見えた
私は観察日記を閉じると、朝顔に背を向ける

去りきる前に一つ後ろを向けば、朝顔の花には、滴が付いて朝日で輝いていた






花言葉 むっつめ「明日もさわやかに」












- 7 -