もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

花言葉 みっつめ「はかない恋」







私が彼女・・・朝花に会うのは、いつも朝早くのことだった


「ちょうじくん」
「・・・朝花」


にこりと笑う笑顔が花のようだと思ったのは、そのときだっただろうか
彼女は私が世話をしている朝顔を見て、やっぱり嬉しそうに笑った


「きょうもきれいなあさがおね」
「あぁ・・・」
「おはなもよろこんでるわ、きっと。だってとってもだいじにされているもの」


必ず言う言葉は「花が喜んでる」「大事にされている」
その言葉に引っかかりを覚えた


「朝花は・・・大事にされてないのか?」
「わたし・・・?・・・だいじに、されてるよ、ちゃんと」


大事にされていると、そう言うわりにはどこか陰のある笑顔
それでも踏み込めない、そんな空気を纏わせた朝花に、私はそれを追求することは出来なかった


「あ、あのね、ちょうじくんにこれをあげようとおもったの」
「・・・?」
「て、だして?」


朝花に言われて差し出した手に載せられたのは、花の種
そのときには何の種だか分からずに、私は朝花を見た


「なんのおはながさくのかはひみつ。でも、きっとちょうじくんがそだててくれれば、とってもうつくしくさくことができるとおもうから、あなたにあげる」


そだててくれる?と首をこてんと横にした朝花に、私は小さく頷いた
すると朝花は喜んで、笑った


「ありがとう、ちょうじくんならそういってくれるかなっておもってたの。けんとうちがいじゃなくて、よかった」
「大事に・・・そだてる・・・」
「うん、ありがとう」


何故ありがとうといわれたのか、あまり考えなかったけれど
きっと種をもらってくれたことに対するものなのじゃないか、と思ったから、そこまで気にも留めなかった


「あ・・・そろそろいかないと」
「そう、か・・・」
「うん・・・さよなら、ちょうじくん」


朝花は、私に手を振って、いつも消えていく角に消えていった
私も、朝花が消えるまで手を振っていた



今日も、振り向けば朝顔は萎れ始めていた





花言葉 みっつめ「はかない恋」










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