もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

50000番 美音様 Me too!


side:兵助


ごめんね、と
泣きそうな表情で紡いだ言葉
例えばその言葉が、もっと別の言葉なら、今のように過去に縛られることはなかったんだろうか

それは遠い記憶
"今"よりももっと、遠い記憶



それは何時もと同じはずの日だった
忍務に出て、いつものように帰れるものだと
そう思っていた

脱出の際に見つかり、学園にまでついてこられるわけにも行かないが、自分一人じゃ相打ちもかなわないと察した
それでも、やらねばならぬと、追っ手に向き合おうとしたとき、そこに現れたのは名前で


『久々知!行って!』
『っ名前?!』


早く、と半ば悲鳴のように名前はそう矢羽音で叫んだ
忍務は巻物を持ち帰ること
このままでは忍務成功どころか帰ることすら危うい中で、敵を引き受けてくれるのは助かる
けれどそれは、助ける立場にあるものが、生還できることが前提で
名前が引き止めても、生還できる可能性はゼロに近い
それなのに、名前は笑った


『生きて帰るよ』


根拠などなにもない言葉を紡いで
そうして居る間にも、後ろは迫る
忍務が優先の考え方に、それに従う俺自信に
悔しくてたまらない
忍務のために、初めて好きだと思うことができた彼女を見殺しにしないといけない
ぐっと拳を握る

きっと、もう会うことはないけれど
その顔を、声を、性格を
・・・告げることのできなかった想いも
全部、忘れない

駆け出してから、ちらりと振り向いた時
ごめんね、と聞こえたような気がした



―――――
side:名前


朝、目を開ければポロリと落ちる涙
また、夢
高校に入学する少し前から見始めた、私によく似た人の夢
釣り合わないことは分かっていたから、そっと心の奥にしまい込んだ恋心
せめて彼が生きてくれたら、とたまたま居合わせた"私"は彼を逃がして死んだ、悲しい終わり方


「・・・あ、学校いかなきゃ」


確認した時間が、起きる時間を示していた



いつも通りの日常
そのはずなのに、なんだか違って思うのは何でだろう
ぼうっとしながら歩いていると、不意に聞こえた初めて聞くはずなのに聞き覚えのある声
はっとしたようにその方向を見れば、男性の集団が歩いていた
明るい茶色の髪が二人、どこかボサッとした印象の髪と、ドレッドの髪、そして、真っ黒い髪の5人組
夢の私が知る時よりも、短くなった髪
それでもどこかで、彼らだと叫ぶ自分がいる
思わず彼らの名前を呼ぼうとして
私は彼らと今知り合いじゃないと気づく
人違いだったら?むしろ、あの夢が現実のものだったと言い切れるの?
そう考えて、見なかった振りをしようと踵をかえそうとしたとき、見えたのは綺麗な女の子に笑いかける彼ら
そこに、私の場所なんて欠片もない


「・・・諦めないと、ダメだね」


無意識に嘲笑を浮かべて、私は今度こそ踵を返した



―――――
side:兵助


「お前まだ引きずってるのかよ、いい加減諦めろって」
「はっちゃんこそ、ずるずる引きずってるくせに」


だから修羅場になるんだ、といってシェイクを飲んだ
はっちゃんはあれは、と言い訳しようとする
けれど小さい声で、お前とは年期がちがうし、と言って苦い顔を浮かべた


「俺はあの時名前を見捨てた、その事実は変わらない。俺が名前を好きになる資格なんてないけどさ、やっぱ違うんだよ、名前じゃないとダメなんだ」
「ったく・・・一途なのはおまえの良いとこだけどさ、名前がこの時代にいる保証も、お前を好きになる保証もないって分かってるのかよ」
「わかってる、でも想うのは勝手だろ」


言ってから吸ったシェイクの中身は無くて、ズッと空気を吸い込む音がした



ある日、三郎が久しぶりに会おうとメールを送ってきて
別々の大学に進学したからなかなか遊ぶ機会もなかったしと集まることになった
場所は三郎たちの学校の近く
はっちゃんと電車に乗って三駅
久しぶりに会う彼らはあまり変わらなかった


「久しぶりだな、相変わらずか?」


にやにやと擬音がつけられそうな笑みを浮かべた三郎が俺たちを出迎えた
質問されたのは俺なのに、三郎の質問の答えをはっちゃんが相変わらずだと返す


「やれやれ、過去を追い求めすぎてちゃ今を満喫できないぞ?」
「俺名前以外好きになるつもりないし」
「そんなこと言うなよ、新しい恋も良いもんだぞ」


私の学校の女子を呼んでおいたから選ぶと良い!と三郎にどや顔をされる
あまり時間がたたない内に、黒髪長髪の女の子を含めた数人がやってきた
三郎が手招きして、彼女らはこちらに来る
面倒だな、と顔をあらぬ方に向けると、女子高生の後ろ姿が見えた
どこか懐かしく感じるその後ろ姿に、俺はその場から駆け出す


「待ってくれっ」


叫んで、足を止めた彼女
振り向いた顔は、求めた姿
俺は驚きと困惑の表情を浮かべた彼女を抱きしめた


「名前、ごめん」
「くく、ち・・・?」
「あの時置いていって、ごめんな」
「ちゃんと・・・帰れた?・・・幸せに、なれたの?」


不安そうに揺らぐ表情
幸せになれたか、なんて
答えも想いも、昔から変わらないんだ


「名前が居なかったから、幸せじゃなかった」
「え・・・」
「好きなんだ、名前。昔からずっと」


驚きに目を見開いた後、彼女が紡いだ言葉は



Me too!
(・・・私も、ずっと・・・)




―――――
両片思いというリクでしたが、表現しきれず・・・っ
時間がかかったにも関わらず、こんな内容で申し訳ない限りです;
リクエストありがとうございました!

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