25000番 琴音様 どんな世だっていつかは君たちと ちゃきり、と忍刀が鳴る 闇夜に浮かぶ月の光を受けて、ぼんやりと輝く刀は、既に血を浴びすぎて曇っていた けれど私の心は曇ってなどいなくて むしろやっと終わった、とある意味で晴れやかだ 「さて、帰ろっと」 きっと今日も寂しがりの狐がないているから 「ただいまー」 「おかえり、名前」 裏口から家に入れば、迎えてくれるのは既に双忍と呼ばれた面影を無くした、鉢屋三郎という人間だ もちろん今の顔も彼自身の顔ではないけれど、誰かの顔を真似たわけでもない ・・・あ、ある意味では真似てるのか 「お店の調子、どうー?」 「上々だ、兵助も手伝ってくれてるしな」 私が聞けば、機嫌よく答える三郎に、かつての友人であり、今は店員をしてもらっている兵助がひょこりと顔を出した 「あ、お帰り名前。三郎、サボってないでさっさと手伝え」 「あぁ、悪いな」 今行くと三郎が答えれば、兵助ははやく来いよと一言残して向こう側へ消えていった そんなやり取りに、懐かしいわねとこぼせば、だろ、とどこか寂しそうに、けれど満足げに三郎が返してきた この店は、元々私が親から継いだもので けれど忍として生きると決めていた私は、どうするべきか考えあぐねていたものだった それを三郎が、店は私がやるから、婿にしてくれ!と言って来て 既に病気で先が長くなかった親は、私さえ良いならそうしてもらいなさいと言った 三郎自身、嫌いじゃなかったし、むしろ好きか嫌いかといわれたら好きだった だからこそ私は二つ返事で彼と卒業してすぐに祝詞をあげた 親が亡くなる前に、孫を見せることは出来なかったけれど 「名前、無事帰ってきてくれてよかった」 「そんなに危ない仕事なんてしてないよ」 安心したように笑う三郎に、私は苦笑して返す 彼がいる、守るべき場所が、帰るべき場所があるから、私は簡単に死ぬつもりなんてないし、受けるものだって穏やかな仕事ばかりだ 元々茶屋なんて情報の集まる場所を生業としているだけあって、そこからの情報を届ける仕事なんてものも多い 少し前までは、三郎だけでやっていたこの茶屋も、兵助が転がり込んできてからは女性客が尚増えた 三郎が、風呂は沸いてるから入って来いよといってくれたので、私はありがたく先に湯を使わせてもらい、調理場へ降りる 「兵助、三郎、仕込みで手伝うことある?」 「そうだなー、じゃあそっちの芋の裏ごししてもらってもいいか?」 「了解」 たわいないおしゃべりをしながらこうやって何かを作る 平和な時間なんて、きっと学園じゃ下級生の頃にしかなかった 上級生になってからは、忍者って言うものがもう先に見えていたから くすくすと笑えば、兵助が微妙な顔でこちらを見てきた 「三郎、名前がなんだか気持ち悪いんだけど」 「はは、名前だから仕方ない」 「二人とも失礼な、嬉しいんだよ、こうしてさ、平和に過ごせることが」 私がそういえば、二人は顔を見合わせて、確かに、と同意した だって、夫婦な私と三郎ならばともかく、兵助が転がり込んでくるだなんて、誰が考え付くだろう 「そのうち5年生、全員集まったりしてね」 冗談でくすりと笑えば、笑えないなそれ、とか言いながらも、三郎も笑みを浮かべる 「ごめんくださーい!」 表から聞こえた声が、聞き覚えのある声で、三人で思わず顔を見合わせる 私がその声の主を見るため、表に出れば、数年前に分かれた、夫の片割れが立っていた 「あ、やっぱり・・・不破君、久しぶりね」 「え、えぇっ、名前ちゃん?」 入って入って、と招き入れれば、三郎も兵助も驚いていて さっきの言葉、笑えないな、本当に、と私たちは状況の分かっていない不破君を見ながら、やわらかく笑いあったのだ どんな世だっていつかは君たちと みんなで一緒の世界が、一番楽しいよ ――――― あとがきです えー、卒業後設定で幸せな小説をということだったんですが、なんかリクエストにそわないようなそったような微妙なものになってしまいましてすみません; 一応、5年生で、三郎と夫婦、んで、何の理由かは知りませんが兵助がそこに転がり込んできた形です でも別に二人とも、忍術学園で同じ学年だった友だから気にしてないし、むしろ友と争わなくていいと分かっているから幸せ、であるといいな、という 説明なんてしなくても分かるように小説で書けよ!って話ですけれど、こんなので宜しければ貰っていってやってください 25000Hitの報告と、リクエストありがとうございました! [*前] | [次#] ページ: |