もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

20102番 志穂様 恋人は男前!










「っと、ごめん・・・って、なんだ、鉢屋か」
「なんだとはなんだ、なんだとは。出会い頭に失礼だな、苗字は」


シナ先生に頼まれて職員室に運ぶ書類を積み上げて歩いていると、廊下の曲がり角で誰かと鉢合わせした
軽くではあるが、人とぶつかってしまったからと、とっさに謝罪の言葉が口をついたが、その後にぶつかった人を確認すればよく知る人物で、続いた言葉はそんな言葉だったのだ
少し悪かったとはおもうが、私たちの関係ならこれくらい普通だろうと特に私は気にしなかったのだけれど


「苗字、流石に酷いんじゃないかとおもうんだが」
「なにが?」
「なんだって言う言葉はないだろ、仮にも恋人なのに」


どうやら鉢屋はお気に召さなかったらしい
・・・私たちはいわゆる恋人とやらだ
雷蔵に言わせれば、淡白な付き合いに見えるけど違うよね、という言葉を貰ったが
私は普通に接しているだけなんだけれどな


「仮にもだろう、仮にも。恋人らしいことは何もしてないしな。大体、苗字で呼び合う仲なのに恋人って言うのもなんだか変だな」
「・・・は?」
「よし、これから私たちはただの友人だ」


いきなりの事で呆けている鉢屋を置いて、私はではな、と声をかけた職員室に向かった
後ろからちょっと待て!という声が聞こえた気がしたが無私だ無視


「いつまでも恥ずかしくて恋人らしいことが出来ないと、私はすぐに離れてしまうよ?三郎」


くすり、と私は笑った




―――――



名前の後姿に、私は待てと声をかけたものの、聞こえているだろう声を聞こえない振りをして名前は颯爽と去っていった
私は手を顔にやってため息をつく


「・・・好きなのは、私だけなのか?」


普段名前と共に居ても、確かに恋人らしいことなどしていない
それどころか、名前に対しては、いつまでも苗字呼びのままだ
不甲斐ないと兵助あたりにはよく笑われるが、名前を前にすると、どうしても名前で呼べない私が居る
本当に・・・女々しいな
そこまで思って、私はもう一度ため息をついた




「それで帰ってきたの?」
「名前も思い切りがいいなぁ」
「仕方ないよ、名前って鉢屋よりも男らしいし」
「勘ちゃん、それ地味にひどいこと言ってないか?・・・まあ、確かに三郎は不甲斐ないけど」
「・・・お前らには優しさが無いのか、特にい組二人」


5人で集まった部屋で、私は4人から痛い言葉を貰った
・・・一番そう思っているのは私だが、改めて言われると痛いっていうのに・・・
そのとき、障子の向こうから失礼する、と声が聞こえた
すっ、と障子が開いて入ってきたのは名前


「いらっしゃい、名前」
「鉢屋に用事があってね、借りていってもいいかな?」
「全然持っていってもらってかまわねえよ」


私の意見を総無視して、にこやかに4人は手を振った
名前もありがとう、と言って私の襟を掴み引きずる


「苗字・・・くるし・・・」
「鉢屋が悪いんだろう、私の名前を全然呼ばないから」


許してやらないぞ?と笑う名前は楽しそうだ
・・・これは、別に私だけが名前を好きなわけじゃないって言うことだろうか?
部屋から離れて、名前が足を止めた


「鉢屋。私は無駄なことはしない主義なんだ」
「・・・知ってる」
「だからな、私がお前を名前で呼ばないのにも意味があるって事さ」


これだけ言えば分かるだろう?と言う名前
私は名前から視線をそらす


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・私も気は長いほうだけれどな、恋人なんだからいい加減に呼んでくれないかな?三郎」
「・・・っ名前」


私が名前に促されて名前を呼べば、名前はどこと無く嬉しそうに笑う


「はい、よく出来ました。愛しているよ、三郎」


そういわれて、顔が熱を持ったのが分かった
・・・反則だろう・・・っ!





恋人は男前!






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鉢屋でなにかということで、実はどんなものにするか悩みました・・・
ただやはり夢であるからには恋愛ものかなぁと思いつつ、書いていたら男女逆な性格になってしまい・・・
ヒロイン男前・・・!な状態になりました
20102hitありがとうございました^^

志穂様のみお持ち帰り可です!









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