待てない、待たない 街からの帰り道 奢らせた簪を鳴らして、俺より少しだけ前を一夜が歩く 体が動く度にちりり、ちりりと小さく鳴る簪が気に入ったようで、わざとならしているようにも思えた けれど、その行為が微笑ましいと思うと同時に胸を覆う黒い何か 今までも確かにあった、けれど名前を知らなかったその感情 「気に入ったみたいで良かったな」 その名前は、嫉妬 俺は今までずっと、知らないうちに、俺は一夜を好きになっていたんだ ただ気づかなかっただけで 振り向いた一夜は笑う その笑顔を作ったのがあの名前も知らない男だと思うと、俺はその髪を飾る簪を抜き取りへし折ってやりたいと思ってしまうんだ いつから俺はそんなに一夜に惚れていたのか、なんてそんなの知らない けど、気がついたその気持ちに嘘はつけなくて 「作、なんだか機嫌がわるい・・・?」 心配してか、俺の顔をのぞき込んできた一夜 いつもなら驚いてすぐ立ち退いていたけど、今はそんな気になれなくて 「・・・さく・・・っ!?」 一夜の唇を塞げば、一夜は驚いたように目を見開いて 俺が一夜を解放すれば、一夜は真っ赤に顔を染め上げた 「さく・・・?」 「いきなりでごめん、でも俺、一夜が好きだ」 一夜はこれ以上ないくらい顔を赤くして、落ち着き無く視線をさまよわせた 俺が名を呼べばはいっと返事をして、何かを決めたように俺を見た 「その・・・僕も・・・」 その言葉だけで充分だった 俺は全部言い終わる前に、一夜を腕の中に引き寄せる 俺よりも少し低い一夜の頭で、簪がちりりと鳴った 待てない、待たない (あ、この簪、授業終わったら折っても良いか?) (!?だめ!作が選んでくれたやつだから!) 【title from】こうふく、幸福、降伏 様 戻 |