もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

ありえねぇ






助けられた日から、僕は作のことを意識するようになって
でも、変な目で見られたくはないからと、僕は努めていつも通りに振舞うようになった
そんな日が続いたある日


「明日は女装の実習だ、二人一組なのはいつもと変わらんが、今回はくじ引きでペアを決める。だれが神埼と次屋と組むことになっても恨むんじゃないぞー?」


きっといつも通り、左門か三之助と組むのだろうと思っていた僕にとって、それは思っても居なかった言葉で
これでもし僕と作が左門と三之助と組めなかったら、と思うと、被害甚大な左門と三之助のペアの人に申し訳なかった
・・・まあ、それは運が決めるから、どうしようもないことだけど


「よし、それじゃ、一人ずつくじを引いて、同じ番号のやつは隣同士で座れー」


そういわれてから、僕が引いたくじを見ると、そこには13の数字
周りの子達がお互いの番号を聞きあう中で、僕も誰と組むのか見つけないといけないなぁと思いながら居ると、左門に話しかけられた


「一夜!何番だったんだ?ぼくは7番だ!」
「あ、じゃあ違うね・・・僕は13番だったんだ」
「13?じゃあ作と一緒なんだな!」


僕は左門の言葉にピシリと固まった
・・・よりにもよって、作・・・
え、まって、それって、一日作と一緒・・・?


「え・・・えぇぇぇっ!!!」


教室に僕の驚く声が響いた
周りは何事だ、とこちらを向く
僕はがくりと膝をついて頭を抱えた
よりによって・・・最近意識しちゃって仕方ない作と一緒って、そうじゃない、保護者が集まるとか・・・!!


「・・・もしかして・・・一夜・・・」
「作と一緒だって・・・」


僕が作に告げると、作も顔を青くしてそん、な・・・とこぼした
僕らの様子と言葉に、ろ組のクラスメートたちも僕らが左門・三之助の両方と一緒じゃないどころか、保護者が一緒という事態に、呆然としている
そしてそこにに追い討ちをかける一言


「俺ら、一緒なんだけど」
「僕は三之助と一緒だぞ!」
「よりにもよってお前らペアなのかよ・・・!」
「うわぁ・・・」


そのくじの結果に、僕らは涙を流した
・・・先生、もうちょっと配慮して欲しかった・・・
恨めしそうに先生を見れば、先生はからからと笑うばかりだった


「・・・あの、左門と三之助に僕らがつくって言うのは・・・」
「駄目だ、それじゃ意味がないからな。二人一組、他の班への手出しは不可だ!」


僕と作は先生の言葉にがくりと肩を落としたのだった




―――――




翌日
俺は進まない手を動かしながらため息をついた

・・・よりによって・・・一夜と一緒か・・・どっちかは、あいつらについてくれたらまだ心労も半分に減ったっていうのに・・・

鏡を見ながら、慣れない手つきで化粧をする
後ろからはまだかー?と聞いてくる左門
その声に、もう少し待ってろ、と返して、やっぱり進まない手をどうにか動かした


「あ、一夜!おはよう!」
「おはよう、左門。・・・作、準備できてないね、どうかした?」
「あ、や・・・今日のこと考えたら気が重くて・・・」


三之助を連れて部屋にやってきた一夜は、薄い桃色の地に唐草模様の書かれた小袖を着て、長い髪は綺麗なかんざしで纏められていた
少し動揺しながらの俺の言葉に、一夜は苦笑した
その顔が、どう見ても女にしか見えなくて、俺は思わず顔をそらした
・・・なんで、俺、一夜にときめいてるんだよ・・・!


「でも、作、早く行かないと遅れちゃうから、手伝うよ。髪結うね」


俺は何でかしらないけど、なんだか気恥ずかしくて、化粧をしながら、髪を触る一夜をずっと意識してしまっていた
まてよ、俺、別に衆道ってわけじゃねぇハズだろ・・・?





ありえねぇ




【title from】こうふく、幸福、降伏





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