もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

迷子は誰だ







今日は演習だ
その言葉は唐突に実技担任から告げられた
内容は、二人一組で組み、首に下げた札を守るもの
隠してはいけなくて、武器の使用も不可
逃げるだけもよし、誰かの札をとるもよしの演習
ちなみに、とられてはいけないが、取り返せば良い


「作、どっち?」
「俺は・・・じゃあ左門にするから、一夜、三之助頼んだ」
「分かった」


"二人一組"の時点で、僕と作、双方が迷子と組むことは決定事項
だってそうじゃないと、二人の手綱は握れない


全員が組み終わるのを待って、札が配られた
僕は方向音痴っていう難点があるけど、体術の上手い三之助に札を渡した


「三之助、持っていてもらって良い?」
「いいぜ」


一言の了承を得て、三之助はすぐに札を首からかけた
僕はどちらかというと最前線よりも中距離からの後方支援型
体術が苦手な訳じゃないが、やっぱりそれが得意な人には負ける


「制限時間は昼まで、範囲は裏山までだ!それでは・・・開始!」


先生の合図と共に、全員が散った





「勝手に来たけど、良かったのか?一夜」
「うん、僕がはぐれなければいいからね」「それもそうだなー、いつも作兵衛も一夜も迷子になるし・・・はぐれるなよ、一夜」


僕は三之助の言葉に苦笑いを浮かべて頷いた
でもしばらくすると、三之助は見事に獣道を進み、道など無い場所をすいすいと歩いていく事になった
体育委員会で日頃から鍛えられている三之助と違って、僕は普段はほとんど活動しない学級委員長委員会
体力と慣れの差で、三之助との差は広がるばかり

そしてとうとう僕は三之助を見失ってしまった


「・・・どうしよう・・・」


やっぱりいつもみたいに、縄で縛っておけば良かったと思っても後の祭りで、今更どうしようもない
演習中だからうかつに叫んで探せもしない
地道に探すしか方法はなかった





極力気配を絶って、見つからないように三之助を探す
そして背の高い草むらにさしかかったとき、僕が草をかき分けて進んでいると、足元が崩れた


「っ!?」


思わず息をのんで、とっさに受け身を取ろうとするが、間に合わずに着地し、足を捻ったのが分かった


落ちてきた上を見上げれば、立って手を伸ばしても届く距離ではなく、無理に動こうとするよりも、怪我を悪化させないように動かない方が良さそうだった
大地に寝転がって、空を見る
少し曇りの空模様
雨が降るのは嫌なんだけど、と小さくつぶやいた




迷子は誰だ









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