もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

はやく帰ってこいよ







「・・・あ、れ・・・?」
「・・・居ないな」
「気のせいじゃないよね・・・?」


後ろからそんな声が聞こえた
くるりと僕が後ろを振り返ると、ろ組の保護者こと作兵衛と一夜が後ろを向いていた


「また居ないの?」
「あー・・・ごめんね、藤内・・・」
「仕方ないよ・・・左門と三之助だし」


ふるふると拳を握ってたえる作兵衛の横で、すまなそうに一夜が謝った
僕はいつものことだしね、と苦笑して言えば、困ったように一夜が笑った


「っ一夜、探しににいくぞ!」
「はーい、じゃあ僕向こうね、見つかったら作の部屋?」
「そうしてくれ!」


作兵衛の気持ちの整理がついたのか、ばっと少し怖い顔をして僕らを見た作兵衛は、直ぐに一夜と役割分担をして縄を片手に走り出した
一夜はそんな作兵衛に苦笑しながら、じゃあまたね、藤内、と残して作兵衛とは反対の方向に走っていった


「仕方ないなぁ・・・今日分からなかったところ教えて欲しかったんだけど・・・」


でも今日は委員会がないし、探すの手伝えばよかったかと思い直しながら、迷子の二人を探しつつ廊下を歩いた




―――――




「さもーん!三之助ー!くそ、本当にあいつらどこ行きやがった・・・!」


一夜と分かれて、いつの間にか脱走していた二人を探して大声で名前を呼ぶ
叫ぶ俺を見て、他のやつらはあぁ、またか、って顔をしてっけど、正直あいつらを探すのは骨が折れる
本気で方向音痴直せよ、と思うんだが、片方は無自覚だからタチ悪いし


「お、富松ー。さっき向こうで次屋を見たぞ」
「ほんとか!?」
「おう、さっさと行ったほうがいいぜ、俺が見たときは移動してなかったけど、今はどうだか知らないからさ」


俺は情報を提供してくれたろ組のやつに礼を言ってから、俺は言われたほうへ走り出した
頼むから動いててくれるなよ!三之助!



―――――



「三之助ー!左門ー!」
「あれ、一夜」
「あ、孫兵とジュンコちゃん」


どうやら探しているうちに、飼育小屋の近くまで来てしまったみたい


「また居なくなったんだ」
「そうなんだよ・・・孫兵は見てない?」
「今日はとくには・・・」
「そっか・・・ありがと、邪魔してごめんね」


僕は孫兵とジュンコちゃんと分かれて、また二人を探す


「三之助ー!左門ー!居たら返事してー!!・・・・・・いない・・・」


気がつけばそれなりの時間を歩き回っていて、僕は一応作の部屋を一度見に行こうと三年の長屋に戻ろうときびすを返した
そのとき、遠くから声がした


「・・・だー!・・・・」
「・・・左門・・・?」


かすかな声
けれどいつもの左門が決断をするときの声に似ていた
僕はその方向に急いでいくと、こちらにかけてくる左門が見えた


「左門!」
「あ、一夜!」
「よかったー、探してたんだ・・・。三之助は?」


やっと見つけた左門に、僕が三之助を聞くと、知らないと帰ってきた
僕はそっか、と返して、左門の手を取った
一応片方は見つけたから、作の部屋に向かおうと、左門を引っ張って、作の部屋に向かった
・・・作、もう見つけて部屋に居るのかな・・・



はやく帰ってこいよ




【title from】こうふく、幸福、降伏





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