もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

馬鹿にしてんのか







「三郎せんぱーい、勘右衛門せんぱーい」
「お、一夜」
「どうしたの?一夜」
「いえ、特に用事という用事はないんですけど・・・」


一夜はふにゃりと笑った
その様子に、鉢屋がぐしゃぐしゃと一夜の頭を乱暴に撫でる
やめてくださいよーと言いながらも楽しそうに笑う一夜だから、俺はこの行為をとめるにとめられなかったりする
・・・でもね、富松の視線が痛いんだよ・・・
じっとこちらを見つめる視線
絶対鉢屋気がついてるよね?
だって口元が確実に何かたくらんでるみたいに笑ってるもんね?


「っあ、そうだ、三郎先輩、勘右衛門先輩、もしよければ後で伺っても構いませんか?」
「ん?どうかしたのか?」
「珍しいね、一夜がそういうの」


一夜は笑うと、さっき作と一緒に厨房借りてお菓子作ったので、おすそ分けに、と笑った
うーん、熱いね、あの二人・・・富松は一夜大好きみたいだし


「へぇ!久しぶりだな、一夜がつくったお菓子」
「はい、最近左門も三之助も委員会で忙しいみたいで、迷子探しがないんです」
「毎回大変だね」


あはは、と苦笑する一夜の頭をぽんぽん、と撫でると、一夜は擽ったそうに笑った
俺はちらりと富松の居るほうに視線をやった
すると、ものすごくこちらをじっと見つめる富松の姿
・・・うーん、そろそろ返してあげたほうがいいのかな?





―――――




じぃーっと一夜が鉢屋先輩と尾浜先輩に構われている様子を見る
一応物陰に隠れてるけど、ぜってぇこれ見つかってるだろうな
だって5年生と3年生じゃちげーだろうし
まあ、一夜が鉢屋先輩と尾浜先輩になついてるのは分かるんだ、よく勉強とか見てもらっていて仲がいいし
俺は上が食満先輩だから、3つ年が離れてっけど、一夜は2つだし、5年生は6年よりも個性強くないし
そんなことを考えながらじっと見ていると、ふと鉢屋先輩の口元が笑っているのに気がついた
・・・これってからかわれてんのか?ってことは・・・ずっとばれてるって事で
俺はそれに気がつくとキッと視線が鋭くなった
いくら先輩だからって馬鹿にしてんじゃねー!俺としてはすっげぇ問題なんだよ・・・!
そりゃ、流石に一夜にくっつきすぎてっかなとは思うけどさ
やっぱ一夜がホントは俺のこと好きじゃないんじゃねーかって心配になるんだよ
悪いか・・・っ!

しばらくそうしていたら、尾浜先輩が苦笑して、一夜を戻そうとしてくれた
尾浜先輩いい人だな・・・!
すると、鉢屋先輩が去り際に一夜に顔を近づけて、額に、ぃっ!?


「鉢屋っ!?」
「ごちそうさま」


ぽかーんとしているのか、一夜は固まっている
尾浜先輩が驚いたように鉢屋先輩の名前を呼ぶも、鉢屋先輩はどこか吹く風で笑って去っていった
そのときに俺ににやり、という擬音がつくような笑みを残して
・・・くっそー、ぜってぇ馬鹿にしてんだろ、あれ・・・
俺は悔しいと思いながらも、一人残った一夜に声をかけるべく、物陰から出た








馬鹿にしてんのか







【title from】こうふく、幸福、降伏





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