もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

引っ越し







「忍術、学園?」
「あぁ、山田さんに誘われてな・・・」


忍者の仕事をしているのも、辛かったのだと苦笑する半助さん
確かに、彼に人を騙し、殺す仕事は似合わない
どちらかといえば教師職のほうがあっている
ということは、私はこの場所においていかれるか、どこかの寺なんかに引き取られるということなのだろう
私自身に荷物はないし、あってもこの1年間で半助さんがくれたものだけだ
それだって、売って返すべきだろうし
正直、着る物さえあればどうにでもなる気がした


「そっか・・・1年間お世話になりました」


私は一つ頭を下げると、長屋を出て行こうとした
けれど腕を掴まれて阻まれる


「何を勘違いしているんだ、遥人も一緒だぞ」
「でも、迷惑でしょう」


出て行くことの何が悪いのだと頭を傾げれば、ため息をつかれた
座らされてぽすりと抱きしめられた


「お前は、まだ子どもだろう?・・・もう少し、頼ってくれないか」


私は、頼りないかもしれないけれど、と半助さんは私を抱きしめたままそう言った
・・・私としては、もう既に十分頼っているつもりでいた
それでは、たりないということ?


「十分頼ってます、だって私を1年置いてくれた」
「それは頼ってるうちに入らないぞ」


半助さんはため息をついた
後ろでぎゃいぎゃいと蓮と藍が騒ぐ


『遥人は僕らにもまったく頼ってくれてないよ!』
『俺もそれには同感だな、頼っているとお前は言うが、それは普通のことで、本当に頼って欲しいときは一人で何でもしようとするだろう』


・・・私はそんなに頼ってないだろうか、とぼんやり心の中で呟いた
微妙な感情が表に出ていたのか、半助さんが苦笑した


「とにかく、遥人も一緒に行くんだぞ」
「・・・ありがとう」


私は薄く笑いを浮かべた
それを見て、半助さんも優しい笑みを浮かべた










半助さんと町を後にして、3日程
少し活気のある町についた
どうやら忍術学園にほど近い町らしい
町で長屋を借りて、そこに住むことになった
・・・別に私一人のために借りるくらいなら、私寺でもどこでも入るのに
そう言ったら軽く叩かれた


「帰ってこれるのは長期休みの時だけだ、大丈夫か?」
「1年間ちゃんとやってこれたのに、今更」


半助さんは頭をかくと、それもそうだなと言った
そして落ち着かない内に、学園に行かないといけないからと出て行った


『また静かな場所だねー』
「・・・そう?」


蓮の言葉に、私は首を傾げた
まあ、前の長屋に比べれば、居る数は少ない
元々居た数もそんな多くないし、半助さんに憑いてきたのも少数だったし
それでも、ただいまと言えばその度におかえりと大合唱する彼らを、私は以外と気に入っていたらしい


「以外と、寂しいね」


ぽつりと呟いた私に、静かに2匹がすり寄った





引っ越し








- 8 -