もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

わたしが私になった後







月日は流れ、わたしは16歳となり、昌浩は14歳となった
昌浩は正式に初冠をし、出仕するようになった
わたしはといえば、裳着を12歳で終えたものの、求婚も無く・・・というより、お断りし、家に留まっている
それは昌浩が心配であったのもあるし、どうせ力が強く生まれたのならば、神のもとに仕えようかと考えていた
きっと、あまり良い顔はされないだろうけれど
陰陽師になれないのであれば、せめて、とそんな思いだ
じい様は過去、貴船の神にお世話になったという
昌浩も、貴船の神には早々にお世話になったと聞いた
ならば、そのお礼もかねて仕えるのは良いことではないか、と

そう、慧斗やじい様に相談すれば、言っても曲げないのだろう、といわれ許された
だから、わたしは弟と共に貴船へと向かったのだ
その途中で、力に誘われた妖怪に喰われ、命を落とすこととなったのだけれど



―――――
side:三郎


「・・・ってことは、遥人は死んだときの記憶があるって事か?」
「あぁ、そうなる」


兵助の頭を撫でながら、なんでもない事のようにそう答えた遥人
けれどその事実は、本来ならばもっと重大なことのはずだ
それをさらりと言ってのけるのは、遥人だからなのだろうか


「別に最初からおぼえていたわけじゃないさ」
「え、そうなの?」
「あぁ、8歳になる頃に、火事があって、その時の火事の原因は妖怪だったんだ。私以外は皆喰べられてしまったのだが、私だけは蓮と藍が居たから助かってな」


そのときに思い出したんだ、と笑う遥人
心なしか、笑うたびに兵助の顔が怖くなる気もしたが、それだけ遥人が大切なのだろうと私は納得して、私は雷蔵の肩にぽすりと手を置いた
遥人に合いの手を入れたのだが、その後の話が少し重たかったせいで、雷蔵が少しだけ落ち込んだからだ
そんな雷蔵に、遥人も苦笑をこぼして、私はそんなに気にしていないから問題ない、と言ってくれた
雷蔵はうん、と返して、遥人は言葉を続けた


「私も、最初はいきなり来た記憶の濁流に飲まれそうになったけど、そこは・・・輪廻転生を知っていたから、まあ人よりは納得するのは早かったんじゃないか?あまり時を置かずに土井先生に拾ってもらったから」
「え、遥人土井先生と住んでるの?」
「あぁ、今年からはきり丸も一緒だ」
「・・・遥人と一緒ってずるい」


思わぬカミングアウトに、兵助が嫉妬したものの、保護者と弟だからと説得をして、それでも納得しない兵助に、ならば今度部屋に泊まりに来ればいいと言って、やっと兵助が機嫌を直す
こちらは二人の桃色の空気に当てられ、既にお腹一杯だ


「それからは、私が昔じい様にねだってどうにか教えてもらった呪術や、勝手に書物を読んで勉強した知識、御門になってから母上や父上に教えてもらった技術で陰陽師まがいの事をしていたんだ」
「遥人はちゃんと陰陽師だろ」
「そういってもらえると嬉しいよ、ありがとう兵助」
「あー、お前らもういい、それ以上やるなら部屋行け部屋!」

しっしっと手を振れば、遥人は一つため息をついて、ここは私の部屋なのだが、とこぼした
それについては知らん、遥人の部屋は茶菓子も揃ってるし、藍と蓮が居るからお茶もついでもらえるしな
いつも学級委員で共に過ごしていて、行動パターンもなんとなく分かる勘右衛門がそれを代弁すれば、遥人は、大きくため息をついた




わたしが私になった後






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