もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

旧知とともに


ご注意!
この回のみは、少.年.陰.陽.師の設定が少々出張ってきています
出てくるキャラクターにつきましては、設定に追加させていただきましたのでそちらへお願いいたします






切りかかっても弾かれる長巻
所詮たまご、所詮陰陽師もどき
どちらにもなれないまがい物か


「弱いな、所詮そんなものか」


騰蛇は無表情で、そう吐き捨てて
反論できない自分が悔しい
ざり、と土を爪が削る
握り締めた長巻だけが、最後の足掻きのようにも思える

そのとき、キィン、と金属の音が響いた
音のした方を見れば、正面に瑠璃の影
濡羽色の長い髪が揺れていた


「へい、すけ・・・っ」
「俺は遥人が弱いなんて思わない」


俺は、遥人ならできるって信じてるし、やってくれるって知ってるから

そういった兵助に、私は目を大きく見開く
最後の足掻き?誰がそう決める?私が限界を決めるのか?
其れは、一番やってはいけない事のはずだろう
私は己に叱咤して立ち上がる


「何故そこまでしてソレを守りたがる」
「俺は遥人が大切で、守りたいって思った。守るって、自分に誓ったから」
「・・・ありがとう、兵助」


ふっ、と笑みが浮かぶ
私を信じてる人が居るのなら、私はここで負けるわけにはいけないだろう?
キッと前を睨むように見る
視線の先には、騰蛇


「前一に立ちて畏怖されたる炎の凶将、騰蛇 その二つ名持ちて我は其を縛らんとす、紅蓮!」


騰蛇の表情が変わる
その名を何故、と音無く呟いたのが見て取れた
私はそのまま前世にて世話になった凶将を思い浮かべる


「っ前四に立ちて諍訟を好む土の凶将、勾陳 その二つ名持ちて我は其を呼び給う・・・っ慧斗!」

騰蛇を縛った上での、勾陳の召喚
応えてくれるのだろうか、と一抹の不安が胸をよぎる
それを裏切るように、応えた神気
現した姿は、記憶と変わらないまま
けれど、その目は困惑と怒気を灯す


「何故、その名を知っている」


現れて早々に、そう言った彼女
今の、主人である晴彦とやらには、教えていないのだろうか、安倍晴明がつけた名を
それはそれで、何か悲しいものがある
呼ばれない名は、無いものと同じではないか


「・・・・・・昌浩の目の前で死んでしまったこと、とても心苦しく思っていたわ。慧斗、紅蓮、ごめんなさい。そして身勝手だけれど、私はこの時代に御門遥人として生まれ、忍者となるためにこの学園に入学し、今ここを守護しているわ。だから・・・慧斗、あなたにこの場所を少しでいい、守って欲しい。飲み込まれないように・・・」
「・・・・・・っ」


見開かれた目
私は昔の名を呼ぼうとした彼女に首を振る
今の私は遥人だから


「兵助、信じてくれてありがとう」
「・・・説明は、後で全部してくれ」
「分かっているさ」


腑に落ちないような表情をしながらも、そういって後まわしにしてくれた兵助に、私は返事を返して
もう晴彦を追っても殺すことは叶わないかもしれないけれど、慧斗が居れば少しは続々とこちらに来る鬼を殺せるはず


「・・・なんと、呼べばいい?」
「今の私は、遥人と」
「そうか、ならば遥人、私はその頼み、引き受けよう」


今度は、守らせてくれ、と笑った慧斗に、私はありがとう、と返して
黒っぽく、そして禍々しく見えるその門を見据えながら、私は一つ拍手を打つ


「冥府の王たる神、閻魔王よ、わが身に降り立ちたまえ、オン・エンマヤ・ソワカ!」
「っ遥人!?」


慧斗の声が聞こえた
分かっている、私が閻魔王をわが身に降ろすことは、まだ早いと
けれど、彼がこの地に一時的にでも降り立てば、事は早く終わるのだ
学園に居る生徒達のためにも、何より後ろで私を信じてくれている、兵助や綾部のためにも

私の意識は闇に消えた




旧知とともに






※今回使用した呪術は、真言以外オリジナルのものです

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